Netflix『離婚しようよ』(大石静との共同脚本)、Disney+『季節のない街』(企画、監督、脚本)と活動の場を配信へと広げている宮藤官九郎。今年になって公開されたこの二作から、ドラマを愛するライター・釣木文恵が宮藤作品の魅力を前後編レビューで考察します。
前編はコチラ。
宮藤官九郎ドラマは停滞を肯定し、ほんとうの平等を描く
宮藤官九郎配信ドラマ考察/後編
宮藤官九郎配信ドラマ考察/後編
停滞を肯定する
『季節のない街』
黒澤明監督『どですかでん』(70年)の原作である山本周五郎の原作(『季節のない街』新潮社)をいま改めて映像化した『季節のない街』で宮藤官九郎は、仮設住宅からいつまで経っても抜け出せない人たちを描いている。震災(ドラマの中では「ナニ」と表現されている)から12年という月日が経っても出ていかない人たち。月収12万円を超えると立ち退きに遭ってしまうから、働いたり働かなかったり、文句言ったりケチつけたりしながら最低限の生活を続けている住人。外からやってきた半助(池松壮亮)はだんだんと彼らに愛着を覚え、友人もでき、この住宅の一員となっていく。ここにいるのは、決して世間で立派と褒められる人たちではない。子どもに偏った愛情を注ぐ親、毎日飲んだくれる男、子どもに頼りっぱなしの父、いびつな情欲や愛をいびつに発散させることしかできない人……。けれども、『季節のない街』では、その誰もが魅力的に映る。人間のみならず、ずぶとい猫(皆川猿時)さえも!
宮藤作品にはよく「停滞」する人たちが出てくる。『木更津キャッツアイ』(TBS 02年)には、死というリミットを前にしながらもただただ地元で草野球を続け、ビールを飲む若者がいた。ちょうど10年前に放映され、今年の再放送で再び注目を集めた連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK 13年)では、主人公のアキ(能年玲奈)はアイドルになるべく上京までするが「チャンスをつかみトップアイドルに!」という物語では決してない。アキの相方であるユイ(橋本愛)に至っては、地元から出ることさえできない/しない。『離婚しようよ』で延々離婚しない夫妻(仲里依紗、松坂桃李)もまさに「停滞」している状況だ。
もちろん、停滞の中にもさまざまな出会いや変化はあり、その中で主人公たちが変わっていったり、成長したりすることもあるのだけれど、傍からみたときの状況はあまり変わらないことが多い。宮藤作品の人々は、多くの場合、駆け上がらない、成功しない。けれど、その状態を、その人々を肯定してくれるのもまた宮藤作品の特徴なのだ。
Edit: Yukiko Arai