大ジャンプに代表されるフィジカルが持ち味の山口コンボイ(右)と、鋭い視点とワードを詰め込んだネタづくりを担う仁木恭平(左)。ともに芸歴を重ねてからケビンスとして再出発した二人。結成わずか2年で『M-1グランプリ』準決勝進出を果たし、まわりに追いつき追い越さんばかりの勢いを見せています。短期間で結果を出すために、彼らはどんな意識を持ち、どんなことをやってきたのでしょう? 結成までの道のり(前編参照)を経て、いままさに飛び上がろうとするケビンスの現在を、多数の芸人インタビューを手掛けるライター・釣木文恵が聞きました。
最短距離で駆け上がるための戦略とは? 注目芸人ケビンスの魅力 後編
マツコに「稀代の男前」と言われたコンボイのフィジカルを智将・仁木が生かす

ケビンスインタビュー後編
出会ってすぐ、
自分の手札を全部見せた
──前編で、仁木さんとの出会いでコンボイさんが大きく変わったことを話していただきました。仁木さん自身は、それまでとなにか変えたことはありましたか?
仁木恭平 (以下、仁木) ケビンスを組んだ時点で僕は芸歴10年過ぎてもう30歳近く、山口コンボイも20代後半だったので、与えられたライブに出て、それに向けて新ネタを作るのではちょっと間に合わんなと思っていました。だから今までのコンビとは取り組み方をかなり変えましたね。自分から動かなきゃ始まらないという事実から逃げずに、目をそらさずに受け止めたというか。
──具体的にはどんなことを?
仁木 とにかくたくさんネタを書く。あとは、コンビ間のコミュニケーションをかなり密にとって、特に最初の頃はコンボイとたくさんしゃべりました。早く関係性を作ろうと思って。自分たちの中で作るだけじゃなくて、周りから「こういうコンビなんだ」という認知もしてもらわなきゃいけない。だから元々それぞれが仲のよかった芸人仲間にお互いを紹介し合って、ケビンスと仲良くしてくれるグループを大きくしていったりもして。
──仁木さんは、「周りのみんなといっしょに売れたい」とよく言っていますよね。「仲良くしてくれるグループを大きくする」のもその一環だと思うのですが、そもそも「みんなといっしょに」の考え方はどこからきているんですか?
仁木 売れることを具体的に想像したとき、たとえば出演したテレビ番組に僕らのことを知らない先輩しかいないと、緊張して本来の力が出せなかったり、どういう芸人なのかを一から説明しなきゃいけなかったりするわけですよね。でも僕らを知ってくれてる人がそこに一人でもいたら、うまく伝わる可能性が上がるじゃないですか。だから僕らの説明書を持ってくれてる同期や先輩が多いに越したことはないんですよ。お互いに安心してボケたりツッコんだりできるほうが、番組自体も面白くなるだろうし。

──お二人は出会ってからの年月が浅いにも関わらず、コンボイさんのエピソードを仁木さんがかなり知っていますよね。先ほどの「たくさんしゃべった」の中には、お笑いの話や仕事の話だけじゃなく、そういうふだんのエピソードもたくさんあったんですか?
仁木 意識的にというわけじゃないんですけど、聞いてもいないのにコンボイからエピソードがぼろぼろ出てくるので。
山口コンボイ(以下、コンボイ) 仁木くんには出会ってすぐ、自分の手札を全部見せる勢いで、いろんなエピソードを全力で話しました。面白い人には面白いと思われたいんで。小学5年生で片タマになった話は2時間たっぷり聞いてもらいましたし、芸人をはじめた頃にテレビ局でマツコ・デラックスさんに「あなた、稀代の男前ね」と声かけてもらった話もしましたし……。だから組もうって頃にはもう、仁木くんは俺のことをほぼ全部知ってくれてました。
仁木 そうですね。
コンボイ カフェで自分の話をいっぱいして、ひと段落ついた後も俺がまだずっと独り言をやめないから「うるせえな!」って怒られて。
仁木 当時はそうやって独り言を言ってるのも、天竺鼠の川原(克己)さんがやるような、高度なボケだと思ってたんですよ。そしたらぜんぜん違いました。
コンボイ ただただアイスコーヒーが好きってことを言ってるだけ。「ああ、500円でパンとセットかあ」って(笑)。
──それは、無意識でしゃべってしまうんですか? それとも仁木さんにかまってほしくて?
コンボイ 俺、かまってちゃんで独り言言ってないですよ!
仁木 いや、根っこに「かまってほしい」はあると思うよ。
コンボイ そうなのかなあ。
仁木 コンボイは、沈黙が無理なんだよな。
コンボイ そう、沈黙が怖いんですよ。5歳くらいの頃、じいちゃんばあちゃんが近所の人としゃべってて、それを隣の部屋でなんとなく聞いてたわけです。そしたら「アハハハ!」と盛り上がった後に黙る時間があって、「さっきまであんなに楽しそうだったのに、なんで急に仲悪くなっちゃったんだろう」と思ったことをすごく覚えてて。
仁木 会話ってそういうもんだろ。ずっと笑ってるほうが怖いよ。
コンボイ 今思えばそうなんですけど。そこからはすっかり間が怖い少年になってしまって。間ができたら独り言を言う、走り出す、などの行動をとるようになりました。
仁木 こういうよくわかんないエピソードも含めて、たくさん話しましたね(笑)。
Photo: Hiromi Kurokawa Text: Fumie Tsuruki Edit: Yukiko Arai