『だが、情熱はある。』(日本テレビ日曜よる10時半〜)は、オードリー若林正恭と南海キャンディーズ山里亮太の半生を題材に、若林を髙橋海人(King & Prince)、山里を森本慎太郎(SixTONES)が見事に演じて話題沸騰中。お笑いとドラマを愛するライター・釣木文恵、イラストレーター・まつもとりえこが、芸人として売れるためにもがくふたりの姿が描かれる5話までを振り返ります。
「自分を語る芸人」若林と山里を描く『だが、情熱はある』髙橋海人と森本慎太郎が本人すぎる!
大はまりのキャスティング
オードリーの若林正恭と南海キャンディーズの山里亮太。いままさに現役で活躍するふたりの芸人の半生を題材にしたドラマ『だが、情熱はある。』が5話まで放送された。
1話から髙橋海人(King & Prince)があまりにも若林で、森本慎太郎(SixTONES)があまりにも山里であることに驚かされた。しゃべり方、表情、たたずまいに、本人の面影が見える。そのうえ回を重ねるごとに役が馴染んできているようで、5話冒頭の髙橋のセリフを聞いたときは、もう本人かと思った。春日を演じる戸塚純貴、しずちゃんを演じる富田望生も同じくとんでもない。
制作スタッフは、こちらも森本が錦鯉・長谷川正紀を演じてみせた『泳げ!ニシキゴイ』(日本テレビ『ZIP!』朝ドラマ 2022)のチーム。光石研、ヒコロヒーらもこのドラマから続投。若林の祖母を演じる白石加代子は、本企画の発案者でありプロデューサーの河野英裕作品に度々出演している。『すいか』『セクシーボイスアンドロボ』『Q10』『泣くな、はらちゃん』『ど根性ガエル』。いずれも彼女がいることで、ドラマの魅力が増した。今回も孫や息子に対して独特な距離感で接する彼女の存在が、このドラマを一段階広く深くしているように思う。
キャストについては、キングコングをモデルとした役をライブシーンで実力を認められるパンプキンポテトフライが演じていたり、山里の兄を「もりもとしんたろう」繋がりでトンツカタン森本晋太郎が演じるなど、お笑いファンが「おっ!」と思うポイントも。
ちなみに、山里の母を演じるヒコロヒーと、その息子を演じるトンツカタン森本は同じ歳だが、見ているうちにそれほど違和感なくなってくるのがすごい。
自分を見せ続けた二人のたどり着く先
山里は「ときどき面白い」という友人の言葉と「モテたい」という原動力で芸人をめざし(1話)、大学で目的を忘れたりしながらも(2話)、NSCに入学し、芸人への道をあゆみはじめる(3話)。「足軽エンペラー」として快進撃を見せるかと思いきや相方から解散を告げられ(4話)、ピン芸人として不遇の時間を過ごしたあと、しずちゃんという最強の相方と出会う(5話)。
いっぽうの若林は父親と衝突しながら高校で春日にちょっかいをかけ(1話)、大学時代も引き続き大学に行く以外は春日とダベる日々を過ごし(2話)、春日を誘って芸人をはじめるも月2回のクレープ屋での仕事くらいしかなく(3話)、やがてモノマネパブでの前説をはじめるが(4話)、オーディションに受かる気配は全くなく、迷路へと迷い込んでいく(5話)。どのエピソードも、彼らがラジオで、ライブで、書籍で、繰り返し語ってきたものだ。
「M-1グランプリ」では、ネタそのものだけでなく、そこにかける芸人たちのこれまで歩んできた道のりに人々の興味が集まる。昨年のM-1では優勝を果たしたウエストランドがM-1本戦後に放送されるドキュメンタリー『アナザーストーリー』(朝日放送)を俎上にあげてこきおろしてみせたけれど、そのことによって彼らの「アナザーストーリー」に注目がより高まる結果となった。
さかのぼってみると2007年、当時無名のサンドウィッチマンが敗者復活戦から勝ち上がり優勝を果たしたことは大きな転換点だったように思う。あまりにドラマティックなその展開に、彼ら自身の不遇の時代をひもとく番組が多く作られた。続く2008年、少しずつテレビに出はじめてはいたものの、同じく無名であったオードリーが敗者復活戦から最終決戦まで残り、強い印象を残した。やがて春日の極端な私生活や、売れずに苦悩し続けてきた若林の姿がおおきな注目を集めた。
彼らは芸人たちのなかでもとりわけ「自分を語る」二人かもしれない。それぞれ長年深夜ラジオという城を持ち、山里は「山里亮太の140」というトークライブをライフワークとしている。オードリーの番組『あちこちオードリー』(テレビ東京)は芸人たちが本音を吐露する番組として高い人気を獲得している。ライブからスタートし番組にもなった『潜在異色』(日本テレビ 2010)の1コーナーとしてスタートした「たりないふたり」にもそんな面があった。「飲み会の断り方」をはじめとした、本来隠しておくような本音を積極的にこぼしていった山里と若林。そして二人はむき出しでぶつかり合う漫才をつくっていった。
山里も若林も、年齢と経験を重ねて変化する自分ごと、私たちに見せ続けている。状況が変わり、立場が変わり、考え方が変わっていく姿をさらけ出す。それが見る者の共感を呼ぶ。
(余談だが、春日は圧倒的に変わらないところが魅力。それでも結婚し、子どもを持って変わった部分もわずかながらあって、そこがまたいい)
過剰にエモくしなくても
4話からは、若林に大きな影響を与えた事務所の先輩・前田健をモチーフとした谷勝太、通称タニショーが登場した。演じるのは藤井隆。
オードリーが敗者復活戦から勝ち上がり強烈な印象を残した『M-1グランプリ2008』、その敗者復活戦でレポーターを務めていたのが藤井その人だ。たしか若林は当時やっていたブログで「テレビ朝日に向かう車の中で藤井さんが励ましてくれた」という内容を記していた。
まさにブレイクのきっかけとなったその場に立ち会った先輩がこうして演じているのはにくい演出。この先、タニショーとのシーンもとても楽しみだ。
「これはふたりの物語」「しかし断っておくが友情物語ではないし、サクセスストーリーでもない。そしてほとんどの人においてまったく参考にはならない。『だが、情熱はある』」
オープニングで水卜麻美アナによって語られるこのフレーズは「過剰にエモくしない」という作り手の宣言なのかもしれない。実際、山里のNSC合格を寮長が発表するところや春日と若林の青春時代なんて、彼らの口から語られると強烈にエモーショナルなエピソードだ。けれど、ドラマでは他のシーンと同列に紡いで走り抜ける。それでもなおこぼれる感情を、視聴者が受け取る。
ともにアイドルでありながら、キラキラとした目の光を封印し、くすぶっていた頃の二人を演じている髙橋と森本。彼らがこの先、どんな若林と山里になっていくのか、後半も楽しみだ。
脚本:今井太郎
演出:狩野俊輔、伊藤彰記、長浜誠
出演:髙橋海人(King & Prince)、森本慎太郎(SixTONES)、戸塚純貴、富田望生 ほか
チーフプロデューサー:石尾純
主題歌:SixTONES『こっから』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Illustrator まつもとりえこ
イラストレーター。『朝日新聞telling,』『QJWeb』などでドラマ、バラエティなどテレビ番組のイラストレビューを執筆。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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