出口の見えない過酷な状況下、どこまでも全員で助かることを目指す白浜優斗(赤楚衛二)と現実を見据える萱島直哉(山田裕貴)。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが、『ペンディングトレインー8時23分、明日 君と』(TBS金曜夜10時〜。山田裕貴、赤楚衛二、上白石萌歌らが出演)3話を振り返ります(レビューはネタバレを含みます)。2話のレビューはコチラ。
考察『ペンディングトレイン』3話。乗客たちはどこまで他人を信じられるか?北千住駅の殺人犯は誰?
優斗に従う乗客たち
ある日突然、通勤電車の車両ごと未来に飛ばされた人々。この場には40人以上いるわけだけど、それぞれの事情もちらちらと垣間見えたりもするのだけど、これまでは基本的に白浜優斗(赤楚衛二)と萱島直哉(山田裕貴)の2人の対立……というか違いが描かれている。
とにかくすべての人の善意を信じ、全員で生き残るためにリーダーシップを発揮する優斗。
理由もわからないまま極限状態に陥っているわけだが、ここにはかなり奇跡的に「いい人たち」が集っていると思う。基本的には優斗の指示にしたがい、協力しあっている。ときに玲奈(古川琴音)のように自分優先の振る舞いをする者もいるけれど、それを仕方ないと受け入れつつ、なんとかやっていっている。降ってわいたこの災害のような状況下では、こうして協力しあうことが得策であるとみな理解しているのだろうか。
信じるか、疑うか
そんななか、田中(杉本哲太)だけが単独行動をする。「誰か(知らない人間)がいた」という言い訳で直哉のたいせつな美容師道具の入ったバッグを奪ってしまう。さらにそのバッグを山中に放置してなくす。怒りを抑えきれず田中を殴る直哉を、それでもなお制する優斗。
その後も毒の疑いのある植物の実がみんなの食事に知らぬ間に混入していたことを受け、直哉は田中への疑念を深める。
「あんた言うことは正しいけどさ、正しくいれば危険はなくなるか?」
そう言う直哉に優斗は
「俺はみんなを助けたい」
と言うばかり。
さすがに大事なものを奪うのはひどいし、ハサミを持ち出すのは危険だと思うよ……とちょっと直哉に同情してしまった。
このドラマを見ていると、自分がこの立場に立ったらどうするだろう? とつい考えてしまう。
実際、直哉のキツい物言いによって、みんなが自分たちにできることをやりながら生き延びようとするという、さらなる協力体制が生まれた。畑野紗枝(上白石萌歌)は
「白浜さんは優しくてまっすぐで、萱島さんは現実的でしっかりしてる。いつか助け合えると思います」
と2人に期待する。紗枝の優斗へのほのかな想いを知る直哉は、「さすが白浜ファン」と軽口をたたきながらも、かすかに残念そうにも見える。
やがて、怪我を負いながら大切な商売道具を見つけてきた優斗の前に、直哉は反発しながらも弟への想いを吐露するまでに。
新たな不穏
お互いの世代や国の壁も乗り越え、食事も喉を通らなかった寺崎(松雪泰子)も前向きになり、なんならこのままコミュニティが形成されて長くやっていけそうな気配まで出てきた。落ち込んだり逆ギレしたりといいところのなかった乗務員(村田秀亮)がいきいきしていたのもちょっとうれしかった。
しかしここで、現代のシーンが挟み込まれ、1話からチラチラと出てきていた北千住駅での殺人犯が紛れ込んでいるらしいことが視聴者にわかる。この善良そうな乗客たちの中に殺人犯がいるのだろうか。
恋愛が下手だが植物に詳しく、食べられるものを判断できるだいじな存在であった加藤(井之脇海)を刺したのはいったい誰なのだろう。せっかくの団結が揺らぎそうだ。
金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS)
脚本:金子ありさ
演出:田中健太、岡本伸吾、加藤尚樹、井村太一、濱野大輝
出演:山田裕貴、赤楚衛二、上白石萌歌、井之脇海、古川琴音、藤原丈一郎(なにわ男子)他
プロデュース:宮﨑真佐子、丸山いづみ
主題歌:Official髭男dism『TATTOO』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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