4月の放送開始から、さまざまな話題を提供して大好評のNHK連続テレビ小説『虎に翼』(月〜土 朝8時〜)。月刊考察レビュー第2回は、女性弁護士、そして裁判官として、未開の道を突き進む主人公・寅子(伊藤沙莉)に強く関わってきた男性たちを、ドラマを愛するライター・釣木文恵が振り返ります。第1回レビューはコチラ。
朝ドラ『虎に翼』寅子を取り巻く優しい男たち
直言、花岡、優三、穂高、桂場、頼安、多岐川、轟、直道、入倉、航一
考察『虎に翼』第2回
僕の大好きな
トラちゃんの顔をして
「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」
『虎に翼』の中に繰り返し登場する日本国憲法第14条。主人公・寅子(伊藤沙莉)はこの条文の実現を目指して生きている。
かつて「女だから」という理由で閉ざされていた、そして開いたように見えても気を抜けばすぐに途絶えそうになる法曹の道。その道を進む寅子を取り巻く男たちを振り返ってみたい。
まず寅子と最初に関わる男性はなんといっても父・直言(岡部たかし)。彼はいつも寅子の味方だ。寅子の意見を支持し、彼女の記事をスクラップしては喜ぶ。妻・はる(石田ゆり子)のこともしっかり愛する、優しさと軽さを持った人物。この時代に直言の軽さは、むしろ強さだったのではないかと第5週の共亜事件を観て感じた。後に寅子に対して優三の戦死を隠していたのも、優しさゆえの行動だ。寅子は傷つきながらも「でもお父さんだけだったよ、家族で(明律大学)女子部に行っていいって言ってくれたのは」と、父が常に自分の思いを受け入れてくれていたことを忘れない。寅子が自分の思うように突き進めたのは、この父親がいたからこそだ。
寅子が淡い思いを寄せる大学生・花岡(岩田剛典)は、うわべだけ女性を持ち上げて、その実軽んじているところのある男性として登場した。このタイプ、現代にこそ相当多い気がする。ジェンダーにまつわるさまざまな問題への注目が高まってきた今、女性に対する表現にとりあえず表面的に気を遣っておく、という言動を見かけることがある(気を遣わないよりはずっといいことかもしれないけれど)。花岡がそんな振る舞いをする裏には、自信のなさがあった。そのことを自分でも認めた彼は芯の強い男になってゆく。弁護士としての一歩を踏み出そうとする寅子に「ついてきてくれ」とは言えず、二人は道を分かつ。そして潔癖すぎるがゆえに、悲しい最期を迎えてしまう。これには晩年の花岡に少しでも登場の頃のずるさがあったなら、と思わずにはいられなかった。
寅子の伴侶となったのは優三(仲野太賀)。かつて書生として寅子とともに暮らしていた優三は、寅子の「弁護士として認められるだけの社会的地位を得るため」という打算だけの結婚相手探しの際、自ら立候補して結婚する。しかしその後、「まあ僕はずっと好きだったんだけどね、トラちゃんが」と告白。寅子との短い夫婦生活で、優三はずっと優しく、直言と同じように、いやもしかしたらそれ以上にありのままの彼女を受け入れ、尊重した。「トラちゃんができるのは、トラちゃんの好きに生きることです」。このドラマの中における優三は、もしかしたら日本国憲法の擬人化なんじゃないかと思うほどだ。
「僕の大好きな、あの、なにかに無我夢中なトラちゃんの顔をして」
その後も優三の言葉は寅子に寄り添い続ける。好きに生きる、無我夢中でい続けるには努力が必要であるところもまた、重要なポイントだ。
Edit_Yukiko Arai