いよいよ今年もラスト。この一年を振り返ると、あまりにスピードが速すぎてぽかんとするのは私だけでしょうか。季節の在りようが変わってしまい、秋がどこかに隠れて狐につままれた気分です。
でも、思うんです。一年の終わりには、やっぱり自分で自分を褒めてやりたい。よくやった、がんばったね、と自分に言葉をかけたくなる。年末になると、私には、決まってつくりたくなる料理がいくつかあります。たとえば、骨付きラムのグリル、牛ほほ肉とマッシュルームの白ワイン風味のソテー、分厚い牛ランプ肉のステーキ……ふだん気軽にはつくらないけれど、思い切って贅沢をしたいときの料理は、うきうきと華やいだ気分を連れてくる。シンプルとかゴージャスとか、高いとか安いとか、そんな領域を超えた「うれしい味」。
ここ三年ほど決まってつくっている年末の料理を紹介します。
帆立貝柱のソテー、白ワイン風味。ハーブをたっぷり添える一品です。あら、肉料理じゃないのね、と思われたことでしょう。そうなんです、このところ、ずっと首位を占めていたラム肉や牛ランプ肉を抜いて人気をさらったのが、帆立貝柱。
北の海でゆっくり育った帆立は、自然界からの贈りもの。扇形の貝殻にがっしりくっついていた白くて大きな貝柱は、豊かさのシンボルのような存在です。年末になにをつくろうかな、と考えていたとき、ふと「貝柱って贅沢な食べものだな」と思ったのがきっかけで、あまり気軽に食べてこなかった貝柱への期待がふくらんだ。正直にいうと、北海道や青森で出会った帆立のおいしさに感動したまま、その記憶を大事にし過ぎていたところがありました。でも、思い立ったが吉日。おいしいワインを飲んで自分を癒やしたいので、醤油方向ではなく、オリーブオイル方向へ……そんな順路をたどって、この一品が生まれたというわけです。
【材料】2人分
帆立貝柱(生、または解凍したもの)6個
にんにく(みじん切り)大さじ1
白ワイン大さじ1 1/2
フェンネル(みじん切り)約6本
イタリアンパセリ(2cm長さに切る)約6本
小麦粉、オリーブオイル、塩・こしょう各適宜
【つくり方】
①帆立貝柱を冷水で洗い、キッチンペーパーなどで水気を取ってから、全体に軽く小麦粉をまぶしつける。
②フライパンにオリーブオイルを熱し、にんにくと帆立貝柱を加える(にんにくは焦げないように注意。カリッときつね色になったら、途中で取り出すとよい)。
③貝柱の表裏を焼き、白ワインをふりかけてフライパンを軽く揺すり、塩・こしょうする。
④皿に盛り、にんにく、フェンネル、イタリアンパセリを添える。
うれしい発見は、「貝柱とハーブはドリーム・チーム」ということ。とくに、貝柱とフェンネルの相性はすばらしく、あの香気に鼻をくすぐられるとご馳走感が一気に高まります。グルタミン酸、イノシン酸、グリシン、アラニンなどうまみ成分の宝庫を、しゃきしゃきのハーブがさわやかに引き立てる。それに、なにかとあわただしい年の暮れは、時間がかからず、さっとつくれる料理が一番じゃない?