コナン・グレイを、あなたは知っているだろうか?
アメリカ・テキサス州の郊外の街に育った孤独な少年が作るメランコリーなポップスはインターネットを通じて世界を席巻し、今やテイラー・スウィフトやBTSのキム・テヒョンもフェイヴァリットとして彼の名前を挙げるなど、大きな話題を呼んでいる。
Z世代の「切なさ」を代弁するアーティストとして、「サッド・ポップ・プリンス」という少しばかり大仰な二つ名で呼ばれることもある、コナン。2020年3月にリリースされた1stアルバム『Kid Krow』には、アイルランドと日本をルーツにもつ彼が「アウトサイダー」として感じてきた21年間の痛々しくも甘やかな思い出が最上のポップスに昇華され、記録されている。
自分に・他者に対して「正直でいること」、人が共感できるポップスを作るための方法、尋常ならざる世界のうねりに飲み込まれないために今、大切にすべきことーーチャーミングで優しくて、可愛くて、カッコよくて、それでいて切ない。コナン・グレイが率直な言葉で語る、2020年の現在(いま)。
アウトサイダーな自分を肯定する。Z世代のニューアイコン、コナン・グレイにインタビュー
──コナンさん、今日はインタビューを受けてくださって、ありがとうございます!コロナ禍で自宅自粛中だと伺ったんですが、最近はどんな毎日を過ごしていますか?
こちらこそ!そうだね、これって本当に興味深い経験だなぁって思ってるな。5ヶ月以上、ずっと家にこもりっきりだからね。音楽に関していうと、今までと変わらず、ずっと曲は書き続けてるから、そこはあんまり変わってないかな。自分が子どもの頃、好きだったことを思い出してやってみたりしてる。例えば、絵を描いたりとかね。楽しいね。あとは普通に本を読んだり、好きなテレビ番組を観たりしてるかな。頭がおかしくならないように頑張ってるよ(笑)。
──たしかに、ずっと一人でいると気が滅入りますよね。
もともと、家にこもって自分でアルバム書き上げちゃうぐらい、ぼくは一人でいることには慣れてるんだけど、これだけずっと家にいるとさ、やっぱり「退屈だな」って思うこともあって。でも、部屋で時間つぶしてるだけで人の命を救えて、伝染病と闘ってるってことになるんだったら、ぼくは全然退屈な日常でOKだよ。そもそも家にいられるってこと自体、幸運なことだからね。他の人のことを思いやりながら、お互いの身の安全を守ることが今は何よりも大事だよね。
──Instagramでは、ご自宅にいる間もファッションを楽しんでらっしゃるところを拝見しました。ニュー・アルバム『Kid Krow』に収録されている「Heather」のMVでも披露されていた制服風のコーディネート、すごくカッコよかったです!
ありがとう、嬉しいなぁ……(笑)。ファッションって、自分の内面と外面を世界に表すためのすごく美しい表現方法でしょ。誰かのために着飾るんじゃなくて、自分自身のために服を着なきゃね。好きな服を着て、気分が良くなると心身ともに自信がもてるようになるでしょ?やっぱり「楽しい」って心から思えないとダメだよね。あ、でも、あのInstagramにアップした制服風の格好は自分が好きな服っていうよりは楽曲の世界観を視覚的に表そうと思って着たものなんだよね。もちろん、朝起きて「今日はスカート履くぞ!」って思う日もあるけど(笑)。
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──最近は、どんなファッション・アイテムがお気に入りなんですか?
えーとね、去年はジーンズばっかり履いてて、その反動っていうわけじゃないけど、この夏はずっとショートパンツばっかり履いてる。生足出すのって最高だよね(笑)。その上に体をすっぽり覆っちゃうような、めちゃデカいTシャツを着るの。『あつ森』(Nintendo Switch『あつまれ どうぶつの森』)のキャラみたいに見えて、楽しい(笑)。あとは、変なダサい感じのゴツいネックレスにもハマってるかなぁ。アクセサリーっていいよね、身に付けるだけで自分の限界を突破できるっていうか。普通の洋服を着てても、ヤバいアクセサリーが一つあるだけで「こいつ、キテるな」って感じになれる。
──コナンさんのファッションはいろんな境界をぶっ壊してくれる感じがして、憧れちゃいます。さっきもちょっとお話に出たんですけど、先日、公開になった「Heather」のMVが素晴らしくて。コロナ禍で撮影の方法に制限が色々あったと思うんですけど、最近発表されたMVの中でもピカイチの作品でした。すごく官能的で切なくて、アーティスティックで、この曲の裏側にあるストーリーが叙情的に視覚化されていましたね。
わー、ありがとうー!そう言ってもらえるの、ほんとうに嬉しいよ。ほとんど監督とぼくの二人で作っていたMVだったから、みんながどんな風に受け取るのかすごく不安だったんだ。嬉しい!
──「Heather」は、心のささくれた部分を刺激する楽曲ですよね。片思いの人に別の好きな人=ヘザーがいて、そのヘザーが完璧すぎてムカつくんだけど彼女になりたいとも思ってしまう……っていう楽曲のナラティヴに、完全に自分の昔の恋の思い出がフラッシュ・バックして。「ぼくにもヘザーいた!」ってなりました(笑)。
あはは。みんな、それぞれ思い出のヘザーがいるよね(笑)。
──〈You gave her your sweater, it’s just polyester(彼女にセーターあげたんだね。あんなのポリエステル製じゃん)〉っていう歌詞がめちゃくちゃリアルで心に響きました。材質についてあえて書いてるところに、失恋の痛みの凄まじさを感じて。このコナンさんの表現特有の「正直さ」や「真摯さ」って、どこやって生まれてくるものなんでしょうか?
うーん……ぼくは12歳の頃から曲を書いてるんだけど、それこそ誰に聴かせるわけでもなくただただ作ってたんだよね。曲を書くことは「今、自分が何を経験していて、どう思っているのか」を記録しておく行為で、いわば日記みたいなものなんだよね。
──なるほど。リアルになるのは必然っていうことですね。自分の人生の経験から出てくるものだから。
うん、そうだね。他の人の音楽もリアルだったり、共感できるものしか好きになれなくて。だから、自分でも曲を書く時は可能な限り、正直な気持ちを書こうとしてるんだ。「赤裸々すぎて、恥ずかしいな」って思うこともあるし、聴いた人がなんて思うか不安になることもあるんだけど、とりあえず、書く。聴く人は「本当のこと」を知る権利があると思うから。
──でも、比べるのも変な話なんですけど、ぼくも日記を書いてますけど、とてもアートとは呼べる代物じゃなくて。やっぱり、何か魔法のようなものがかかる瞬間があると思うんですよね。普段はどうやって、曲を書いてるんですか?
魔法っていうような、魔法はないと思うんだけどね。とりあえず、ベッドに座って「やってみるか!」って書き始めることが多いんだけど……。例えば「Heather」だったら、本当にどこからともなく突然〈You gave her your sweater, it’s just polyester〉っていうフレーズが頭の中にポンって浮かんだんだよね。で、歌ってみたらいい感じで。「ポリエステル」って言葉がとにかく気に入ったんだ。「こんな言葉を使ってる曲、今まで聴いたことないぞ」って一人でニヤけちゃって。その二行の歌詞からスタートして、曲の残りを一気に書き上げた感じかな。
──あぁ、なるほど。その最初に浮かんできた「ポリエステル」っていう言葉に引っ張られてできていったって感じなんですね。ディテールが曲を生き生きしたものにすると。
うん、やっぱり、具体的に書くことはすごく大切で。人ってさ、みんなそれぞれ全然違う人生を生きているように思い込んでるけど、実際のところは、結構同じようなことを同じように経験してるんだよね。今、振り返ってみると興味深いなって思うんだけど、「Heather」を書いていた時は「誰もこんな曲に共感してくれないだろ……」って心配してたんだよね(笑)。曲を聴いた人に「うわー、コナンって最悪。なんで、ヘザーに嫉妬してんの?すげえ意地悪なやつ」って責められるんじゃないかって思ってた(笑)。
──今やYoutubeやTikTokでも、すごい再生数ですもんね。めちゃくちゃいろんな人に、個人的な経験から生まれた楽曲が響いている。
そうだね。曲に描かれていることは、ぼくが実際に体験して思ったことだし、真実だから。普通に生きてたら、人に嫉妬することもあるし、死にたくなるほど不安になったり、悲しくなることもある。でも、それは「本当のこと」でしょ。そういう感情を覚えたっていいってことを、自分の体験をリアルに描くことで、聴く人にも同じように思ってもらえたらいいなって。だから「書こう」って決心できたんだよね。
──ただ、やっぱりそういう自分の個人的な経験を正直に書くと、無防備で柔らかい部分を世界に晒すことにもなりますよね。自分を理解してもらえないんじゃないかって、不安になることもあるのかなと思うんですが。
オー・マイ・ゴッシュ!毎日思ってるよ(笑)!
ぼくはテキサスのど田舎で育ったんだけど、半分日本人だし、こんな感じの人間だから、学校でも全然馴染めなかったんだよね。いつどこに誰といても「どうやったら自分はここにいていいんだって思えるんだろう」とか「普通になるにはどうしたらいいんだろう」って考えちゃって……。アウトサイダーであることは自分の人生のテーマになってるんだよね。こうやって、たくさんの人に曲を聴いてもらえるようになった今も「ぼくの言ってることに何の意味があるんだろう」とか「ぼくの曲にみんな共感してくれるのかな?」とかってことは毎日、ぼんやり考えちゃうな。
──その居場所のなさみたいな感覚はコナンさんの楽曲を聴いていると伝わってきて。リアルなストーリーテリングにファンは勇気づけられていると思うんですよね。ポップスターとして、そういう孤独なキッズたちの期待を背負っているっていうことを重荷に感じることはありますか?それとも、むしろ、やりがいを感じますか?
常に「いいお手本にならなきゃ」とは思ってて、たまにそれをプレッシャーに感じることもあるし、人の言葉を過剰に気にしちゃう時もある。でも、完璧な存在には絶対なれないでしょ?そもそも、人間っていう存在自体が不完全なものだし。「完璧になろう」なんて思うのは間違いで、そう思った時にはもう失敗してるんだよ。自分自身に折に触れて言い聞かせているのは「人は正直であろうとする人や、自分の限界に挑戦する人を尊敬する」ってこと。だから……その言葉にふさわしい人間になれるように、努力してるね。
──完璧を求めすぎると、心も体も壊れちゃいますしね。
そうだね。でも、今思ったんだけど、ぼくたちの世代っていうか今の若い世代の人たちはみんな「正しく」「善く」あろうとしてる気がする。世界がこんな状況だからさ。そういう意味では、みんなぼくと同じようにプレッシャーを感じてるんじゃないかな。
──あぁ、たしかに、これまでの常識が通用しなくなった今の世の中で、少なくとも自分だけは正しくあろうとする感覚は、若い世代の人たちにとってはユニバーサルなものかもしれないですね。そういう生きづらい時代に、コナンさんの心の支えに今なってるものって音楽以外だとなんですか?恋愛というわけでもなさそうですね。
いやぁ……恋愛関係とかさ、あったらそりゃ支えにもなるだろうけど、全然ないんだよね。っていうか、ぼく、誰とも付き合ったことなくて。ぼくとデートしたいって人が周りにいたら、マジで教えて欲しい。誰かいない(笑)?
──それ、Geniusのインタビューでもおっしゃってましたけど、コナンさんが魅力的すぎるから、気後れしちゃうんじゃないですか?
いやぁ……(笑)。そう言ってくれて嬉しいけど、本当に何もないんだよね。声かけられてそういう雰囲気になっても、しばらく会話してるとぼくのことを「うわっ、こいつは厄介だわ……」って思うらしくて、全然発展しないんだよね。
──そんな感じしないですけどね。だとすると、一体何なんでしょう?
んー、そうだねー。今、ぼくの世界の中心になっているものは、やっぱり友達かな。友達っていうより、もうぼくにとっては家族みたいな存在で。毎日、一日中話してるね。友達がいなかったら、ぼくは今、この地球上にはいないと思う。
──あぁ、なるほど……。『Kid Krow』に収録されている「The Story」は、辛い時にそばにいてくれた友達との関係を描いた楽曲でしたね。
ぼくの子供時代は決して順風満帆ってわけじゃなかったんだ。すごく辛いことが毎日あって、何度も「もうダメだ」って諦めそうになった。ぼくは大人になることはできない、これ以上、前に進むことはできないって。でも、そんな時に友達が、ぼくのことを抱きしめてくれて「君は愛されてるし、まだこの地球の上にいなきゃいけない存在なんだよ」って何度も何度も言い聞かせてくれたんだ。だから、ぼくにとって友達は「人生のすべて」って言ってもいいぐらい、本当に大切な存在なんだ。
──コナンさんの表現がなぜ今の若い世代の人々の心に刺さるのか、今回のインタビューですごくみえてきました。最後にコナンさんが自由に自分らしく生きるために心がけていることを教えてください。
当たり前のことだけど、人生って、あまりにも短くて。自分がやりたくないことをやってる暇はない。時間を巻き戻すことはできないわけだから、悩んでるんだったら、とりあえずやってみるしかないと思う。大抵のことは、どうでもいいんだよ(笑)。自分のやりたいことをやるしかないよね。
──ありがとうございます!まだまだ先は見えないですが、日本にきてくださる日が楽しみです!
今すぐにでも行きたい!本当に!
最後に日本に行ってからだいぶ、時間が経っちゃったから。すごく恋しいよ。なるべく早く行けるように頑張るよ。それまで、安全に待っててね!
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Conan Gray
シンガー・ソングライター。1998年生まれ、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ出身。アイルランド人の父親と日本人の母親を持つ。9歳からYouTuberとして活動し、2018年、19歳で初めての楽曲「Idle Town」をセルフリリース。同年リリースされたデビューEP『Sunset Season』は米・ビルボードの期待のHeatseekersチャートで2位を獲得し、VogueやVmanなど海外主要メディアから称賛を受ける。ビリー・アイリッシュ、BTS、The 1975など同業のファンも多い。2020年3月にデビュー・アルバム『Kid Krow』をリリース。
@conangray
Text & Translation: Jin Otabe Photo: Brian Ziff Edit: Milli Kawaguchi