是枝裕和監督初のタイムトラベル・ラブストーリーが本日5月9日(金)よりYouTubeなどで公開される。全編がiPhone 16 Proを使って撮影されたことに加え、主演が仲野太賀と福地桃子とあらば、もう期待しかない。iPhoneで撮る/撮られる初めての体験が、作品に何をもたらしたのか。3人が振り返る。
是枝裕和監督×仲野太賀×福地桃子 Apple制作の短編映画『ラストシーン』が公開
全編iPhone 16 Proで撮影!

芝居に影響を与えたiPhoneのちょっと意外な特徴とは?
作品のテーマは「未来に何が残り、何が消えるのか」。テクノロジーが進化し、AIが日常となり、リアルとは何かを誰もが模索する——そんな現代を舞台にした、切ないラブストーリーとなっている。
iPhoneだけを使って写真や映像を撮影するAppleのキャンペーン「iPhoneで撮影ーShot on iPhone」。映画監督の是枝裕和による短編『ラストシーン』は、その新たな作品だ。「ちょっと新しいことをやってみたいという気持ちでオファーを受けた」という是枝が仲間に選んだのは、撮影監督に写真家の瀧本幹也。そして実力派俳優の仲野太賀と福地桃子である。仲野の役は、『もう恋なんてしない』というテレビドラマに携わる脚本家の倉田。福地は、50年後の未来からタイムトラベルしてきた由比を演じている。
是枝 これまで全く短編を撮ったことがなかったこともあり、劇場公開の長編とは違うテイストのチャレンジもできそうだな、と思ったんです。演出自体はいつものスタイルと変わりませんが、iPhoneの最新機能の説明を受けて、「スローモーションの機能はここで使えそう」「(手振れ補正を強化する)アクションモードは2人が全力で走るシーンで使おうか」と、脚本を書きながら考えました。そもそも僕は普段、役者に合わせてカメラも走る、みたいな撮り方をあまりしないので、これ、成立するのかな……と思いながらでしたけれど。でも実際使ってみたら驚くほど安定感があった。映画でここまで安定した移動撮影をするためには、相当な機材を使わないと難しいんです。それがこんなに簡単に、このクオリティで実現できてしまうことが結構ショックで。そういう意味でも面白かったです。
福地 私もiPhoneでの映像撮影は初めてだったので、その「撮られ心地」はどんなものなんだろうと興味をもって臨みました。現場で感じたのは、iPhoneのサイズ感や日常感が影響していたのかなということ。走るシーンでは、「どこから撮られているのかわからない」という感じもあったと思います。もちろんカメラも一緒に走っているから、カメラの存在を完全に忘れているわけではないんだけれど、それに限りなく近い状態でいられたのが新鮮でした。
仲野 確かに、iPhoneがあまりにも小さいので、お芝居はすごくしやすかったですね。始めは、慣れない撮影環境で自分が普段通りお芝居できるのかなって少し不安に思ってたんですけど、いざやってみると、撮影隊からの圧が全くないというか。
福地 圧(笑)。
仲野 いや、圧っていうのもヘンですけど、緊張感がほぼ皆無。やっぱり、機材が大きかったり多かったりすると、カメラの前に立つことの緊張があるんです。その緊張が良いパフォーマンスに繋がることもありますが、今回の作品のような、自分の等身大に近いシチュエーションを演じるには、iPhoneの存在感がとてもありがたかった。頑張ってグッと気持ちをあげずとも、繊細な心の動かし方で、表現したいことが伝わる……みたいな。
観覧車の切ないシーン、その親密な空気感の秘密。
今回、「iPhoneで撮る」というシチュエーションならではの場面がいくつかあるが、そのクライマックスは、間違いなく終盤の観覧車のシーンだろう。スローモーションの幻想的な映像に、心臓をギュッとつかまれるような数分間。

福地 クランクインして最初に撮ったのが観覧車のシーンだったのが、とても思い出深いです。物語としては、ある意味ラストシーンでもあるんですけど。
是枝 観覧車の狭い空間って、映画の機材だととても撮りづらいんです。でもiPhoneで撮れるのだったら、いちばん大事な場面は観覧車の中にしようと思いついた。つまり逆発想で生まれたシーンです。
仲野 4人だけの不思議な空間でしたよね。是枝監督と瀧本さんが、こう、小さなiPhoneで撮ってるすぐそばで、演者2人が普通に芝居してるっていう。
福地 ギュッとした空間の中で、さっき仲野さんがおっしゃった「圧のなさ」が助けになりました。ただ、もちろん撮れていると信じているけれど、ホントに撮れてるの?という感じもあって……誰も不安を口に出さないけれど、終わった瞬間にふーって全員の息がもれた気がしました。
仲野 撮影当日のシチュエーションがすっごく良かったんですよ。天気も陽の落ち方も完璧で、ものすごく高揚感があった。この完璧な状況が、どれくらいiPhoneで拾えるんだろう?って。
是枝 何かトラブルが起きたら、4人でどよーんとしながら1周まわるしかないからね(笑)。でも、観覧車の場面のあの特別な親密感は、もちろん二人の演技力もあるんですけど、カメラがiPhoneだったということが影響したと思う。
仲野 いいシーンでしたよね。
是枝 2人は物語の中で、「大切なものが50年後に残るのか、なくなってしまうのか」の責任を負わされているわけです。自分の選択によって残せるものがあり、でも失われるものもあること。それを知ってしまったうえでなお、選ぶことができるのかということ。さまざまな感情の瀬戸際で厳しい選択を迫られた2人が、それでも心を通わせていく姿が映っている。大切なものへの想いや2人の切実さが強く静かに迫ってくるように、太賀くんと福地さんが演じてくれた。いちばん最初にあのシーンが撮れちゃったのは、大きかったですね。これが短編のラストに来るのであれば、前半は遊べるし日常的な感じで演出できる。そう思えて、すごくやりやすくなりました。

3人が残したいもの、失いたくないもの。
美しい観覧車のシーンが終わり、そして、30分弱の短編を観終えた後、映画の世界に深く入り込んでしまった頭と心で考える。自分ならどういう選択をしただろう。自分は未来に何を残したいだろう。
仲野 鎌倉の海辺のシーンも印象に残っています。砂浜では倉田が脚本を手がけているドラマの撮影が行われている。その様子を遠くから眺めながら、50年後からやってきた由比と2人で、「未来にはあれもない、これもなくなった」「未来には何が残るの?」っていうことを、波打ち際で喋っている。その何気ないセリフのやりとりが、僕、すごく好きだったんですよね。どこか寂しい気持ちになりながらも心を近づけていく2人が、切なくて儚くて、でも尊くて。

福地 私は、素朴な会話を交わしながら見た砂浜の貝殻が、とても大切で美しいものに思えて、それが作品のテーマに繋がっている気がしていました。あのシーン、最初にいろんな撮り方を試したあとで、「どこから撮っても絵になるな」って是枝さんがおっしゃったんです。それはたぶん、倉田と由比が感じていたことが、遠くから撮っていた是枝さんにも伝わったということだと思うんです。
──では最後に、映画のテーマでもある「50年後も残したいもの、失いたくないもの」を、みなさんそれぞれ教えてください。
福地 私は、ものを買う時の値段交渉。街のバザーでお店の方とやりとりする時間が好きなんです。あちらの方の「好き」とこちらの「好き」がまざりあって、ものの値段が決まることに、いつもワーッて気持ちが高まります。
仲野 表現欲とか……創作欲ですね。今、AIで何でも作れちゃうじゃないですか。こういう椅子が欲しいって言えば簡単に作るだろうし、芝居さえも生身の俳優が演じなくていい未来があり得るっていう話を聞いて。でも、僕は演じることもものづくりも楽しくて好きだから、その欲だけは奪わないでほしい。表現したいという人間の感情は、AIには補えないんじゃないかと思っています。
是枝 砂浜で2人が会話してる時に、太賀くんが突然、「それ、俺の仕事だから」ってドラマの撮影隊のほうへ走っていくでしょう。あの顔がさ、すごくいいんだよね。
仲野 自分の仕事を取られたくないっていう本音に近い感じでした(笑)。

是枝 その姿を見ている福地さんの横顔もよくて、映像に残したいと強く感じた。この感情の動きもたぶん、人間にしかないものだと思うんです。そういうモチベーションは大事にしたいし、50年先も残ってほしいものの一つですね。

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『ラストシーン』
5月9日よりYouTubeほかで公開。全編iPhone 16 Proで撮影。被写界深度エフェクトのある「シネマティックモード」や撮影中の手振れ補正を強化する「アクションモード」に加え、「スローモーション」や「5倍光学ズーム」などの最新機能が使われた美しい映像も見どころ。
監督_是枝裕和
撮影_瀧本幹也
出演_仲野太賀、福地桃子、黒田大輔、リリー・フランキー他
音楽_Vaundy、大橋トリオ、くるり
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是枝裕和
これえだ・ひろかず>>1962年東京都生まれ。『万引き家族』(2018)でカンヌ国際映画祭最高賞・パルムドールを受賞するなど、名実ともに世界から高く評価される。制作者集団『分福』を立ち上げ、若手監督の育成も行っている。
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仲野太賀
なかの・たいが>>1993年東京都生まれ。昨年だけでも7本の映画に出演した実力派。2026年のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」では主役の豊臣秀長を演じる。
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福地桃子
ふくち・ももこ>>1997年東京都生まれ。舞台『千と千尋の神隠し』では千尋役を務め、海外ロングラン公演も。2025年公開作品が複数控えている。
仲野さん シャツ¥25,300(ディガウェル|ディガウェル1)03-5722-339 *その他スタイリスト私物
福地さん シャツ¥41,800、スカート¥49,500(共にラム・シェ|ブランドニュース)03-6421-0870/ピアス¥17,050(ノーム|コスチュームユニオン)、リング¥12,650(ソワリー|コスチュームユニオン)06-6377-6711
Photo_Wataru Kitao Styling_Dai Ishii, Kazuhide Umeda Edit_Masae Wako