30歳、幼なじみのティアスとマキシムが、短編映画で男性同士のキスシーンを演じることになり、カメラの前で交わした偶然のキスをきっかけに互いに秘めていた感情に気づき始める──。グザヴィエ・ドラン監督が初めて真っ向から純粋なラブストーリーを描く『マティアス&マキシム』は、二人の青年のひと夏の恋を綴った映画『君の名前で僕を呼んで』に感銘を受けたことがきっかけで生まれたという。彼の地元、カナダ・ケベックで撮影し、ドランの実際の友人たちが仲間役で出演していることも注目だ。友情と恋の間で揺れる青年マキシムを演じ、監督したドランに、本作への思いを聞いた。
肉体的にも精神的にも抗えない恋。グザヴィエ・ドラン監督インタビュー

──『マティアス&マキシム』を観終わったときに、「友情は相思相愛でありながら、抵抗によって達成できない擬似恋愛関係」「(抵抗を克服すれば)恋愛になる可能性は極めて高いと言える」という『恋愛的瞬間』(吉野朔実著/小学館文庫)の一説を思い出したのですが、これには賛同しますか?
美しい一説ですね。賛同できる部分もあるけれど、僕自身には当てはまらないかもしれないとも思う。なぜなら、僕は女性に惹かれたことがこれまで一度たりともないんです。女友達と恋に落ちているように感じる瞬間もあるけど、だからと言ってそれが抗えない恋愛関係ということでもない。抵抗は深く肉体的なところとつながっている、遺伝的なものだと思う。いや、それを精神的なものだと呼ぶ人もいるかもしれないけれど。
──友人リヴェットの妹・エリカというキャラクターが登場しますが、彼女のようにセクシャリティやジェンダーの問題にオープンな世代の人たちをどう受け止めていますか?
僕は若い世代の人たちを常に賞賛します。彼らは向こう見ずで粗削りで、何事にも本気でケンカをふっかける。変化を求めて必死で反抗して、努力する。でもそれは若さゆえのものなんだけど。ただ、彼らの戦いはこれまでの世代よりももっと状況的に大変で切羽詰まっているということは感じます。
──言葉フェチの仲間たちが映画のなかで言葉遊びをしていますが、ご自身もよく友人たちとしていることなのでしょうか?
そうですね。言葉遊びが好きな人たちだし、僕らにとって言葉は、会話を面白くするための効率的で使いやすい道具なんですよね。
──本作は当時30歳のドランさんが同世代の青年たちを描いた物語ですが、成熟するにつれて得たこと、また、大変になってきたことがあれば教えてください。
大人になるにつれて得たものは、愛すべき俳優たちと一緒に映画をつくり、素晴らしい経験ができるようになったこと。今回は親しい友達と共にクリエーションをしたいという思いで、彼らと一緒に過ごし、彼らに守られながら生まれた作品です。僕はこの10年間ずっと、他人からの批評に自分自身がどう向き合うかを考えながら生きてきたけれど、もうそんなことで悩む必要はないと感じる。僕は今、いろんなアーティストの眼の中で演じて存在したいし、彼らと一緒に仕事がしたい。それは僕に語りたいストーリーがなくなったというわけではなくて、今まで以上に人生が大変になってきたからなんですけどね。
──大好きなハリー・ポッターシリーズからインスピレーションを得て、ホグワーツ魔法魔術学校のダンブルドア校長の顔のタトゥーを腕に入れているそうですが、それ以降、新しく加えたタトゥーはありますか?
新たなタトゥーはないですね、今のところは!実は、もう何年も入れていないから、そろそろほしいなと思ってちょうど予約をしているんですよ。二つは必要かなって(笑)。
『マティアス&マキシム』
原題: Matthias & Maxime
監督・脚本: グザヴィエ・ドラン(『Mommy/マミー』、『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』)
出演: ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス、グザヴィエ・ドラン、ピア・リュック・ファンク、ハリス・ディキンソン、 アンヌ・ドルヴァル
提供・配給: ファントム・フィルム
2019年/カナダ/120分/ビスタ/5.1ch
©2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL
9月25日(金) より、新宿ピカデリーほか全国公開
https://phantom-film.com/m-m/
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Xavier Dolan
1989年、カナダ、ケベック州生まれ。6歳の頃より子役として、映画、TV、CMに出演する。2009年、19歳の時に監督・主演・脚本・プロデュースをした半自叙伝的なデビュー作『マイ・マザー』で、カンヌ国際映画祭監督週間部門に選ばれ、国際的に高い評価を受ける。その後、監督・脚本・編集に主演も果たした『胸騒ぎの恋人』(10) と、監督・脚本・編集・衣装を手掛けた『わたしはロランス』(12)は、カンヌ国際映画祭ある視点部門に正式招待される。初めて戯曲を原作に監督・脚本・編集・主演を務めた『トム・アット・ザ・ファーム』(13)は、ベネチア国際映画祭に出品され、国際批評家連盟賞を受賞する。2014年には『Mommy/マミー』がカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、カナダ・スクリーン・アワードで最優秀作品賞含む9部門での受賞を果たした。2016年には『たかが世界の終わり』がカンヌ映画祭グランプリをはじめ、セザール賞最優秀監督賞と最優秀編集賞など多くの監督賞を総なめ。初英語作品となった『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』(18)では、ナタリー・ポートマンやキット・ハリントンなど豪華ハリウッド俳優の共演が話題に。映画の監督以外では、『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』のオープニング曲を担当したシンガーソングライター、アデル「Hello」のミュージックビデオを手掛け、ジュノー賞で年間最優秀賞に輝いた。