先日、京都・二条城を舞台に2022年コレクションを発表したばかりの〈トモ コイズミ〉。東京オリンピックではMISIAの衣装を手がけ、多くの人が彼の美しいクリエイションを目にした。今回、〈フレッド〉との初のジュエリーコラボレーションもお披露目になり、世界中からラブコールが絶えないデザイナーの小泉智貴に話をきいた。
〈トモ コイズミ〉の小泉智貴が「繋げる」ものとは? 〈フレッド〉とタッグを組んだ、初のジュエリーも公開に

今、ファッション業界に新たな風を吹き込んでいる、〈トモ コイズミ〉を手がけるデザイナーの小泉智貴。『LOVE MAGAZINE』のケイティ・グラントの目に留まったことがきっかけで、2019年2月に2019-20年秋冬コレクションを〈マーク ジェイコブス〉の店舗で発表。それから一気に彼のクリエイションは世界中に広まり、多くのファッション業界関係者からラブコールが絶えない。そんななか、2020年3月には新型コロナウイルスによるパンデミックが起こり、あっという間に2021年を迎えた。彼は、どのような気持ちでこの数年を過ごしてきたのだろうか?
また、ジャン=ポール グードとのコラボレーション以来、12年ぶりのに発売となった「フレディズ」で、〈フレッド〉では初めての日本人デザイナーとのコラボレーション、また〈トモ コイズミ〉にとっても初めてとなったジュエリーブランドとのコラボレーションが誕生。制作に2年以上費やしたというこの取り組みについても話をきいた。
──2019年秋冬コレクションをマーク・ジェイコブスの店舗で発表したショーが印象的でしたが、それから数年で世界的にご活躍されています。そのあいだ、パンデミックが起こったりと予期しないことも多くあったと思いますが、2020年には「LVMHプライズ」でファイナリストに。この数年を振り返っていかがでしょうか?
2019年はまだコロナではなかったので、忙しい1年でした。多いときは月2回、ニューヨークも行ってヨーロッパに行くようなときもあって、すべてのことが新しかったですね。ショー後にはバイヤーさんからたくさんの連絡をもらいましたが、その中から取引をすべきかどうか決断するのに悩んだりもしました。すごく良いことと大変なことが一気に起こった年ですね。いろんな人に出会い、経験をした、良くも悪くも振り幅の大きい年だったと思います。
2020年は「LVMHプライズ」があったのですが、ファイナリストに選ばれたものの、結局コロナの影響で選考は中止になりました。パンデミック中はコラボレーションや自分のコレクション仕事を進めながら、どこかに行けないということをポジティブに捉えて普段できないこと、たとえばリサーチや本を読んだり、クラフトのテクニックを研究したり、そういうことに時間を使いました。2020年のほうが気分的には明るくて、今年のほうが混沌としている、社会にしわ寄せがきている感じがしますね。
ニューヨークの〈マーク ジェイコブス〉の店舗で発表した、2019-20年秋冬コレクション。Photo by Steven Ferdman/Getty Images
—パンデミックが起こったことで、クリエイションに影響はありましたか?
変わるというよりは、自分が信じてやってきていることとか、こうしていきたいという気持ちが強化され、背中を押される感じでした。たとえば、人をワクワクさせたり、希望が湧くようなものを作りたいという気持ちが強まったり、商業ベースの成長を支援するLVMHプライズのタイミングで、マス市場に乗っていかなければならないのかと量産化する気持ちにもなったのですが、最終選考がコロナで中止になったこともあり、リスクをとってまで新しくやることではないと思いました。すべては捉え方次第だと思うのですけど、自分のやりたいことにフォーカスできるチャンスになったという感じではあります。
──14、5歳ぐらいのころにジョン・ガリアーノが手がけた〈ディオール〉のオートクチュールの写真に衝撃を受けたのがきっかけで服作りを始められたそうですが、その頃ご自身が服に感じていたパワーは今も変わりませんか?
そのときの感動を持ち続けられていることも幸運ですし、これがあったからこそブレずにできているのかなと思います。最近、ガリアーノとプロジェクトができて、直接話せる機会があったので、変わらずやってこれてよかったと思っています。
──そのときから服作りはパワーを与える、喜ばせるものだと考えていましたか?
オートクチュールなどは自分が男性なので着るということは考えられないのですが、見るだけでワクワクしたり希望を持てるものがあるんだと知ることができました。実物は見られないけれど、写真や動画を見て「すごい!」と思ってもらえることに意味があると思います。全員ではなくても、一部でもそういう人たちが必ずいますから。
──いつもインスピレーションを得ているものは何ですか?
小さい頃から当たり前に身の回りにあって、これまで気づかなかったけど、実は自分に影響を与えていたというものを意識して掘り下げようとしています。インターネット以前のテレビにすごく影響を受けているので、アニメやポップカルチャー、音楽、エンターテイメントの世界など、今の自分の作っているものに通じていると思います。僕の母方の親戚が葬儀会社を営んでいたので、仏教や死後の世界、装飾など、宗教美術や特殊なデコレーションに実は影響を受けていたんだなと、大人になってから分かって。当たり前過ぎて意識していなかったことが、大きく刷り込まれているんだなと改めて感じます。
──「当たり前」になっているもので、他に思いつくものはありますか?
そうですね、10代のときに流行ったカルチャーでしょうか。僕が10代だった頃はインターネット以前、ソーシャルネットワーク以前で、日本の独自性が強く存在していました。今は、基本的に日本で制作しているのですが、海外の方にも見てもらうことが多いので、日本のカルチャーや身の回りのことを自身のフィルターを通して少しずつ出していこうかなと思っています。個人的なストーリーになってユニークさが出るかと。
──先日は京都でショーも行いました。日本らしい伝統とトモさんの幻想的な衣装がとても美しかったショーには、「日本の資源や文化、精神性を見直し継承する」という思いがあったそうですが?
日本文化については当たり前にありすぎてなかなか言葉で表現するのが難しいのですが、言葉にできない部分をカタチにしようとしていたりはします。今回のショーでいうと、幽玄の美、夢の中、和の世界観を出せたら良いと思い、ファンタジーだけどダークファンタジーのような、そういう雰囲気は出せたかなと思います。
ショーの前に能をやっていただいたんですけど、能は「神事能」として盛んに行われていた歴史もあります。自分のショーにも祈りの気持ちがあり、芸能自体に儀式的な意味があるし、ただのファッションショーよりは神聖なものになればいいなと思って行いました。
京都・二条城で発表した、2022年コレクション。
──舞台衣装を多く手がけられていますが、今回、オリンピックでMISIAさんの衣装を手がけたことでも話題になりました。このコラボレーションはどのように誕生したのでしょうか?
もともとMISIAさんの事務所の方に提供したことがあって、オファーを受けました。制作には2カ月くらいかかりました。アナ・ウィンターからもドレスについて直接連絡があって、それは嬉しかったです。
──ジュエリーのコラボレーションは初めてとのことですが、今回、「フレディズ トモズドールズ」を制作し、いかがでしたか? 服作りと違いなどありましたか?
当然なんですが、服より時間がかかりますね。その分、タイムレスで美しいものが作れているという感覚が強いコラボで、すごく嬉しいです。僕は、タイムレスな美しさを服作りでも心がけているので。
〈フレッド〉は、一番最初にコラボレーションをオファーしていただいたブランド。2019年のショーのあとにお声がけ頂き、制作に2年以上かかったプロジェクトでした。本来であれば直接もっとやり取りができたと思うのですが、コロナ禍のなかでもスムーズにやり取りをさせて頂き、とても感謝しています。
──デザインのこだわりを教えてください。
自分が普段作っている服と〈フレッド〉のDNA、例えば色使い、楽しい雰囲気、自由さなどはもともと2つのブランドに共通しているものだったので、自然とデザインは出てきました。難しい部分でいうとテクニック。オーガンジーの透け感をメッシュでどう出すか、フリルのディテールとか、どの色の石をどう使おうか、スタイリングとか、そのあたりは初めてのことだったので難しかったです。でも、2つのブランドが頑張って作ったので、仕上がりは最高のものになったともいます。実物のほうが繊細さが伝わるので、是非見ていただきたいですね。
──パンデミックでファッション業界は販売、流通やプレゼンテーション方法など、大きく変わってきたと思います。今後、ファッション業界はどう変わっていくと思いますか? また、業界に期待することはありますか?
感覚的には、中途半端なものは淘汰されるのかなと思います。今回の〈フレッド〉のコラボのように飛び抜けたデザイン、どうしても欲しくなるもの、大量生産ではないもの、それをずっとコレクションしておきたいものが増えていくのではないでしょうか。
量産しない、オルタナティブなスタイルのデザイナーとして活躍できる、こういうやり方があるんだと、僕を見て真似して、面白い若いデザイナーが増えてくれたら業界が活性化していくのかなと。数字だけじゃない評価軸がもっとできたら良いなと思います。
──ソーシャルメディア上の数字はとくに若い人は自然と意識していたりすると思いますが、トモさんはいかがでしょうか?
ソーシャルメディアでもさまざまな人がいますが、自分の中にある揺るがない「軸」となる気にかけているものに見てもらえばいいなと思っています。
なにかリリースしたあとに、僕もエゴサーチしてしまうんですが、ネガティブな意見は300件に1件くらいで少ないんです。でも、やっぱり気にしちゃいますね。ただ、そういう意見があるからこそ地に足をつけていられて、自分に疑問を投げかけられもする。本当にそうなのかな、と努力するようにもなる。落ち込んだり腹が立ったりしますけれど、全部を受け入れて成長するようにしています。
──今後の予定などをお聞かせください。
コラボはいくつか予定しています。あとは、若手支援のプロジェクトをなにかやれたらいいなと、気軽に考えています。たくさんの助けがあってショーや活動ができていることに感謝しているので、こういう流れを循環させたい気持ちが常にあります。僕を見て希望を持ってもらえるのも嬉しいし、自分が直接アドバイスやヘルプができることがあったら良いなと思っているので、できることからコツコツやっていけたらと思います。伝統芸能と同じで「継承していく」「繋げていく」、そいういうふうにしていきたいです。
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小泉智貴
1988年千葉県生まれ。 独学でデザインや縫製を始め、高校在学時にコスチュームデザイナーのアシスタントを経験。 千葉大学に進学後、ファッションブランド〈トモ コイズミ〉を設立。『LOVE MAGAZINE』のケイティ・グラントの目に留まったことがきっかけで、2019年2月に2019-20年秋冬コレクションを〈マーク ジェイコブス〉の店舗で発表し、その後、世界的に活躍している。