「退屈ならもう一生分味わったから」と〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉を舵取るラムダン・トゥアミ。ひと時も無駄にせず、誰よりも濃く日々を疾走する彼を東京で取材。鮮やか色のコレクターズライフに迫った。
マイスタイルで行く自転車愛|退屈知らずの伝道者、ラムダン・トゥアミのクリエイティブな遊びの時間 vol.2

自転車があればどこまでも
環境を守ってエコを実践
元赤坂はあまり興味のないエリアだったが、「いろんな場所に5分圏内で行けて便がいいと気づきました」とラムダン。もちろんそれは、徒歩でも地下鉄でも、車でもなく、愛すべき〝自転車〟での移動。パリでは「ミスター・バイクと呼ばれている」と自負するほどのコレクターで、世界に3台しか現存しないジャン・プルーヴェの名品をはじめ、オリジナル仕様にカスタムした自転車を今までに27台所有している。
「自宅のリビングに飾っている」というジャン・プルーヴェによる幻のバイク。オークションがあると聞きつけ参加、冗談で値をつり上げていたら「ブラボー!あなたが競り落としました」と告げられ仰天!最終価格もわからず「本当に買わないとダメ?」と尋ねたのだとか。
出合いは8歳、小学校までの5キロの道のりを支えた真っ赤な自転車。
「今でも覚えていますが、大きな車輪の不格好なやつです。それでも当時は大好きでずっと乗り続けていました」
パリや東京、ニューヨーク。世界中のどの都市にいようと、もっぱら移動の足は自転車。タクシーですらめったに使わない。
「地球に優しいし、通勤を自転車に変えれば健康にもいい。ただ東京の街は自転車には難しい環境です。プラスチック問題同様、自然やエコロジーについてもっと真剣に考えるべきだと思います。『ウェイクアップ、ジャパン!』と声を大にして言いたい。自分たちで変えていかないといけません」
自転車は同時に、ラムダンにとってファッションのような存在でもある。
「雨が降れば雨用、ミーティングに急いで行くならスピードが出るバイク。服のようにオケージョンに合わせてチェンジしたい。スポーツバイクは乗らないので、背筋がまっすぐに伸びるタイプ。あとプラスチックに手が触れたくないから、ハンドルは必ずウッドグリップ。すべて自分でカスタムデザインしていて、フレームからペダル、ブレーキと、ディテールには共通した要素がいくつもあります。どれも僕の自転車だとすぐにわかるはずです」
2021年の終わりには、何年もかけて進めてきたオリジナルの自転車ブランドがついに完成する。バイクマガジンも同時にスタートする予定だ。
「ブランド名は〈ペディフォース〉。ペディはラテン語で脚を意味して、直訳すると〝脚の力〟。仲間と一緒にワイワイ楽しみながら作っていて、プロトタイプはもう仕上がっています。どうなるかな。いつも新しいプロジェクトを始めるときはいいんですが、そのうち悪夢になりますからね(笑)」
冗談めかしながら目を輝かせるラムダン。このパワフルなエネルギーが周囲に伝染して、プロジェクトの原動力となるのだと伝わってくる。
事実、ニュースはひっきりなしだ。〈ビュリー〉のパリオフィスは、19世紀に文化の中心地だった10区の社交場跡地に移転する計画で(分散していた全機能を集結。地下にはナイトクラブを併設する)、「ギャザリングショップ」というガソリンスタンドにカフェと雑貨を取りそろえたユニークな店舗も近々お目見えする。日本でも〈ビュリー〉の新ショップが続々オープンするし、まだ非公開ながら今回の滞在中にも都内に新たな拠点を設けることが決まった。
猛スピードで異次元へと導くラムダンの小宇宙。これからもその引力は、私たちを惹きつけてやまなさそうだ。