アルバム『Jubilee』や文筆活動、映像制作で幅広く活躍中のミシェル・ザウナーのソロプロジェクト、Japanese Breakfast。 音楽を軸とした独自なスタイルとクリエイティビティの一端に触れた。
心躍る情熱のひと Japanese Breakfast
“よろこび”へとたどり着くまで
珍しく会期中、好天が続いたフジロックフェスティバル 2022。最終日の7月31日、会場の中でも一番広いGREEN STAGEで、背後の大きなディスプレイにはさまざまな映像が流れる。一曲目の「Paprika」からひとり大きな銅鑼を叩き、歌いまわる姿に目が釘づけとなった。そして、きらっきらの笑顔に、胸元にはふわっふわの犬!演奏はもちろんのこと、音楽性を含めたそのスタイルに、ひとめ惚れせずにはいられなかった。それが、Japanese Breakfastことミシェル・ザウナーである。
「犬のトップは〈Nφdress〉のものです(中国出身デザイナーによるロンドン発ブランド)。なんというか、面白いなと選びました(笑)。あと、外はとても暑いので、袖のない服が好きなんですよね。動きやすいし。この犬は、昨夏のUSツアーの前に買いました。ずっと前から目をつけていて『こんなおかしなもの、絶対手に入れなくては!』と思ったんです。スタッズ付きのパールネックレスは〈ジュンヤ ワタナベ〉、歯のピアスは〈Sandy Liang〉。〈ミュウミュウ〉のプラットフォームシューズは、背を高く見せてくれる。それは、舞台上で自信を持つために大切なことでもあります」
ステージでのオーラはそのままに、にこやかにミシェルは話してくれる。ポップカルチャーへの愛がこもったタトゥーの数々や、フジロック現地で手に入れたというハット。いろんな要素が渾然一体となって、とにかくポジティブなエネルギーを放っている。以前からずっとこのようなスタイルだったのだろうか?
「活動を始めたばかりの頃は、女性ミュージシャンとして真剣に相手にされるために、とてもシンプルで男まさりな格好をしなくてはと考えていました。でも今は、そのように証明する必要がないと感じています。少しだけ実験的な装いをできていますね。衣装をはじめ、いつもちょっと遊び心のあるものを身につけるのを好んでます」
昨年6月にリリースしたアルバム『Jubilee』のグラミー賞主要4部門を含む2部門へのノミネートやエッセイ集『Crying in H Mart』の出版、そしてその映画化が決まるなど、活動の幅はとどまるところを知らない。創造性にあふれ、着々とクリエイターとしての道を歩んでいるようだが、そこには契機があった。2011年から3年ほどは、通っていた大学のあるペンシルベニア州でロックバンドを組んでいたミシェル。しかし、大切な存在である母が癌を患っていると判明。すぐに故郷のオレゴン州ユージーンへと戻った。
「創作のアイデア自体は、たくさんあるんです。2014年に母が亡くなってからは特にそう考えるようになったのですが、自分に与えられた時間は限られていて、短い。だからこそ、一生懸命働いて、自分のアイデアをすべて表現したいと強く意識し始めました。クリエイティブの核は、心の奥底から湧き出てくるものじゃないとダメだと思っています。自らの心を突き動かす、何かを表すものでなくてはならない。私の曲や文章は、本当にごく普通のトピックを扱っています。それを、特別なこととして、描いているんです」
13年に個人的プロジェクトとして始まったJapanese Breakfast。16年に『Psychopomp』、17年に『Soft Sounds from Another Planet』と母の面影や自らの苦悩をはらんだアルバムを制作してきた。そして、3枚目のアルバムは、これまでの2枚から時の経過とともに視点は変わり、〝祝祭〟の名がつけられている。
「『Jubilee』は〝よろこび〟をテーマにしたアルバムで、黄色は〝よろこび〟そのものの色。だから、一時期、黄色ばかり身につけていて。リリース時は、〈シモーン ロシャ〉をよく着ました。すごく華やかだなと思って……アルバムを的確に体現してくれていると受けとめていました。発売から1年経ち、今は色にとらわれず服を楽しんでいます」
創造への熱い想いにほんの少し触れられたものの、実作業で迷ったときはどうしているのか。
「私にとっては、〝ルールを決めてから創作する〟ということが、大きな助けになりました。Japanese Breakfastとして曲を書き始めてから、『June』というプロジェクト(2013年6月リリース)にとりかかったのですが、その名の通り、ひと月をかけて毎日曲を書いて、レコーディングをしたんです。忙しくて10分しか自由な時間がない日も、1日の終わりにはひとつの曲を仕上げねばというプレッシャーが、士気をあげるために必要でした。あえて1カ月という制限を設けることで、いろんな選択肢を手放せて、集中へとつながりました」
ステージでのファッション同様に、ハッピーなヘアメイクについても実は気になっていた。
「いつもNYでは『SHIZEN BROOKLYN』というサロンのディレクターであるMAIに頼んでいます。今回みたいに旅に出るときは、セルフでしていて。彼女のメイクの仕方が本当に好きで……MAIは本当に創造的なアイデアをたくさん持っているので、自分で化粧をするときは、ちょっとだけ真似してやってみるようにしているんです」
from MAI
信頼するMAIさんから見たミシェル
「私の働くヘアサロンに7、8年前にお客さんとして来てくれたのが出会いでした。あの小柄な姿からは想像つかない秘めているパワーの大きさと、芯がありブレない強さは最初から変わらないと思います。そして何より本当に心が優しい。撮影の内容によってヘアメイクのやりとりは異なりますが、基本的にはミシェルのやりたいイメージを聞いて、私が提案する流れです。毎回同じことをしてもクリエイティブではないので、その都度新しい挑戦をしようといつも話していたり。それも楽しい部分ですね。カバー撮影から1年半越しにアルバム『Jubilee』が発売されたとき、ミシェルがレコードを持ってきてくれました。
パンデミックを経てのリリースで、よりうれしかったのを覚えています。また今年5月、米アーティストなら誰もが一度は出たいと思う番組『サタデー・ナイト・ライブ』に出演。彼女の夢が叶う瞬間に携われたことはとても幸せでした!」
マイ>> カリフォルニアの美容学校を卒業。ヘアサロン「SHIZEN BROOKLYN」ディレクター。ミシェルもめちゃくちゃかわいがっているイアンという8カ月のベイビーのママでもある。
最後に、ミシェルにとってのスタイルとは?との問いへの答えが、下に記されている通り。まさしく彼女にふさわしい言葉であった。
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Japanese Breakfast
ミシェル・ザウナーによるプロジェクト。1989年韓国・ソウル生まれ、アメリカ・オレゴン州で育つ。Japanese BreakfastのMVは、ほぼ自らが監督している。