写真や映像を手がけるアーティスト、ペトラ・コリンズ。15歳で活動を始め、同年代の少女を捉えた、ガーリーで毒のある作品が話題に。30歳の誕生日プレゼントとして4年ぶりに来日した彼女に、じっくりと話を聞いた。
ペトラ・コリンズにインタビュー。10代の自分がいつも隣に

ペトラ・コリンズの名前はいつだって彼女の年齢とともに語られてきた。時には等身大の視点でティーンを捉えたその作風について語るため、またある時は若くして収めた成功を褒め称えるために。高校生のときにカメラを手に取った彼女は、2010年にタヴィ・ゲヴィンソンが編集長を務めたティーンエイジャー向けの雑誌『Rookie』で発表したエディトリアルや、〈アメリカンアパレル〉とのコラボレーションでその名を世に知らしめた。10代から写真家やモデル、そしてフェミニストアイコンとしてスポットライトを浴びてきた彼女だけに、年齢との向き合い方に独特な感覚があるという。
「10代の女の子たちの日常に夢中になってシャッターを切っていたのは、自分が若い頃から仕事をしていて、そういった経験が欠けていたためだと思う。早く大人にならないといけなかったから。今は、実際の年齢に対して未熟だとも、成熟しているとも思わない。すごく長い間生きてきた気はするけど(笑)。でもこの歳になって、人を深く洞察できるようになったし、写真を通して捉えたい女性像や、美の定義は変わってきた」
思春期から、映画『HOUSE ハウス』(77)など日本のカルチャーにも影響を受けてきた。
「tumblrで保存する画像は、気がついたら日本の作品ばかりだった。“かわいい”表層の下にダークなメッセージが潜んでいるところが、自分の目に映る世界と共通していて、惹かれるんです。同じく好きなハンガリーのホラー映画にも通じる感覚を抱きます」
今回の来日中に行ってみたい場所があるという。
「有明にあるミニチュアミュージアム『スモールワールズ』に行くのが楽しみ。蒐集癖があるから、マニアックな博物館に足を運ぶのが好き。写真を撮るのもまた、自分が愛してやまない人やものを、イメージとして“コレクト”して、そのカケラを自分に取り込んでいく行為だと思う」
バレエシューズからiPhoneまで
変わっていった自身の“制服”
この日は、〈メゾン マルジェラ〉の黒のレザージャケットと、〈プラダ〉のシンプルなブーツの私服姿。ジャケットは6年前、大きな仕事のご褒美として購入したお気に入りだという。特集にちなんで自身のユニフォーム観について聞いてみた。
「クローゼットは服であふれているのに、手に取るものはいつも同じ(笑)。大切にしているのは、フィーリング。その時の自分を一番“いい気分にさせてくれる”格好を選んでいます。ファッションはずっと生活の大事な一部だけど、装いは年齢とともに変わってきた。10代の頃は、心地よいを基準に選ぶことは全然なくって。目立って、ワクワクして、キャラクターを演じているような気分になれるものばかり着ていた。5歳からずっとバレエを続けていたから、はき心地の悪い靴が当たり前で、おしゃれと快適さは両立するんだ!って気づいたのは20代になってから。だから、スニーカーを愛用し始めたのはけっこう最近です(笑)。足にあった靴の方が、撮影でも動きやすいしね」
この頃、ファッションを通して表現したい自身の姿が変わってきたそうだ。
「ニュートラルで、どちらかというとマスキュリンな装いが似合うと思っていたし、ことさら“女らしい”ルックは、ずっとしっくりこなかった。でも最近は、80年代のパワースーツをまとった女性たちに興味が湧いてきたんです。ブレザーにヒールを合わせるのが、セクシーでカッコいい!LAにある、ショーダンサー向けの衣装がそろうショップ『Lady Love』に、当時の素晴らしいヒールコレクションがあって。そこで買ったシューズをはいているとパワフルな気分になれるから、新たな定番になっています。『靴が変われば歩き方が変わるし、ジャケットが変われば動き方が変わる』って言うしね。今は、自分の中に芽生え始めた“女らしい”ムードに合わせてドレスアップするのが楽しい。昔はなかった感覚だから、こういう時に、年を重ねることの喜びを実感する」
現代人の必需品、スマートフォンの話にも。ペトラの作品においても、iPhoneを持ったモデルが度々登場するなど、印象的なモチーフだ。
「私たちの世代にとってずっとそばにあるものだから、それも含めて撮った方が正直な写真になる気がして。それにインスタグラムの普及は、女性が自らのイメージを操作して発信できる、またとない機会だと思った。スマホやセルフィー文化が人間に与える影響に興味があるから、作品にも取り入れている。iPhoneは私のユニフォームとも言えるのかも。よくないと思いつつ、最近は何時間もTikTokを見続けちゃう。中毒性はあっても、アイデアを得ることはないんだけどね」
では今の彼女にインスピレーションを与えるものとは?そう尋ねると、またしてもホラー映画に関連した答えが返ってきた。
「『ポゼッション』(81)で、主演のイザベル・アジャーニが地下鉄で動物的に怒り叫んでいるシーンには、すごく影響を受けた。それと、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『クラッシュ』(96)に登場する、ホリー・ハンターが演じる役柄にも。スタイルは違うけど、両者とも“フェミニン・レイジ(=女の怒り。映画や文学における、女性登場人物による憤りを描いた作品ジャンルを指すことが多い)”を表現している。そういったキャラクターに惹かれるのは、自分の中にある“女の怒り”をまだ表現しきれてないからかもしれない」
アーティストにとって、強い感情はしばしば創作の原動力になるが、ペトラの“怒り”はどこへ行くのだろうか。
「私が何かを作るときは、いつも子どものように遊んでいる感じ。だから、自分の怒りがどこに向かうのかは、まだよく分かっていない。腹立たしいときや悲しいときはいつも、13歳の頃の自分が今の姿を見たらどう思うか考えるようにしています。今の私がやっていることを見て、とてもワクワクするだろうし、目を輝かせて『よくやった!』って褒めてくれるはずだから」
Photo_Petra Collins Text_Lisa Tanimura