世間にも流行にも媚びることなく“キョンキョンらしさ”を貫き続けてきた小泉今日子さん。近年はプロデューサーとして、舞台の制作にも力を入れている。ブレることなく突き進む、その人の視線の先にあるものとは──。
舞台『ピエタ』小泉今日子にインタビュー
明日を、よりよく生きるために
舞台制作の会社を作ったきっかけは
『ピエタ』を立体化させたかったから
エッジィな感性で、アイドルや俳優といった肩書きに縛られない独自の世界を切り拓いてきた小泉今日子さん。世間を熱狂させてきたその人が、舞台を中心とした制作会社を立ち上げ、自ら運転手や荷物運びといった裏方仕事までしているというのだから驚く人も多いはず。「50歳になったら、なにか新しいことを始めようと思っていた」という小泉さん。それが、舞台制作というものに向いたのは、大島真寿美の小説『ピエタ』との出合いから。
「読売新聞の読書委員というのを9年間ほどやっていた時、記者の方から読んでみてくださいとすすめられたのが、ヴィヴァルディの史実を基に創作された『ピエタ』でした。音楽家として知られるヴィヴァルディが、司祭でもあり、子どもたちに音楽を教えていたということをそこで知って。ヴィヴァルディが亡くなった後、ある女性がかつて書いた“失われた詩”をめぐり、さまざまな立場の女性たちが出会っていく物語ですが、最後に彼女たちが連帯してひとつのことを成し遂げていく…シスターフッド的な動きをしていくんです。物語の中では、すでに大人になっているけれど、少女時代に書かれたその詩を読んだ時に、いつかの彼女たちの瞳に映ったであろう空やさまざまな景色を想像して、もう本当に泣きました。ここまで自分を支えてきたのも、そんな少女の時の記憶だったり、当時見た綺麗なものだなと思ったらこみ上げてくるものがあって…。舞台設定は18世紀のヴェネツィアという壮大さながら、物語がささやかなテーマに向かっていくというのもすごく素敵で。このお話を立体的に見せられたらいいなと思いました。日本で映像化するのは難しくても、舞台なら大島さんの静謐な文体の感じも残しながら作れるかもしれない。実は会社を作る際に舞台制作ができる子をスカウトしたのですが、実際に動き出す何年も前に、彼女に『いつかこれを舞台化したいと思ってて』って文庫本を渡していたくらい」
それだけ強い思い入れを持った企画を進めるにあたり、プロデューサーの小泉さんが脚本・演出として声をかけたのは、演劇ユニット「ブス会*」を主宰するペヤンヌマキだった。
「もともと脚本をお願いしていた方が、残念なことに、ご病気で亡くなられてしまったんです。そんなときに俳優の安藤玉恵さんに誘われて『ブス会*』を観に行き、直感的にペヤンヌさんとならできると思って、すぐにご相談しました。普段書かれるものは現代の女性たちの話ですし、俗っぽさもありますが、その時の舞台の根本的なテーマだったり、女性が成長していく中で過去の自分と語り合うようなシーンだったりに、『ピエタ』と近いものを感じて。実際に創作を進めてみると、世の中に対する視点が私と近く、『ここはもう少し女性にクローズアップしたシーンにしたらどうだろう』って言うだけで話が進む。あれこれ説明しなくても行きたいところに一緒に行けている感じは、すごくうれしいですよね」
原作は単行本でも厚みのある長編ゆえ、物語のどこに焦点を置くかが重要になってくる。
「主軸を担う3人以外にも、いろんなキャラクターが結びついていることは絶対に入れたいと思っていました。とくに同じピエタの出身で、オペラ歌手として活躍するジロー嬢と薬屋に嫁いで店を切り盛りするジーナの、幼い頃からお互い憧れていた事実とか。ヴィヴァルディの妹さんたちとジロー嬢のお姉さんたちの交流とか。そういう些細なエピソードを残すことで、演劇をご覧になる方が共感できる選択肢が増えたらいいなと」
ワンピース ¥46,200、ベスト ¥63,800(共にハイク | ボウルズ)/サンダル ソール7cm ¥61,600(カチム)
Photo_Keiko Nakajima Styling_Maiko Kimura Hair&Make-up_Mika Iwata (mod’s hair) Text_Lisa Mochizuki