「JapanFoodExpert」を経営する料理研究家・長田絢さん。テレビ番組の料理コーナーやコメンテーターを務めるほか、レシピやメニューの開発など、肉料理を中心とした“食”の大切さを広める活動をしている。最近では、地方創生事業にも力を入れ、地元の食材を使ったメニューの提案も。その一方、プライベートでは二児の母。20年間、シングルマザーとして子育てをしながら駆け抜けてきた。女性起業家として体験談を伝える講演会も行う長田さんに、仕事と育児の両立や、今の職種に行き着いた経緯を伺った。
料理研究家・長田絢が探し続ける奥深い“食”の世界。
お肉に魅せられて、メニューを考案!

10代の頃は、全く“食”に関心がなかった長田さんは、もともと自炊はせず加工品を口にすることが多かったという。初めて、興味を持ったきっかけは、家族を守るためだった。
「20歳で、長男を出産したのですが生まれて間もなく運動発達障害と診断されました。病院に通いながらリハビリの治療を受けていたのですが、自分にもできることがないか探すため、人体学や医学を必死に勉強。すると、当たり前のことですが、“食事”が健康と密接な関係にあるというのがわかったんです。それから、加工品ばかりで適当にしていた食生活を見直しました。手料理を作り、徹底的に栄養バランスが良い献立を考える日々が始まります。地道に改善した結果、どのくらい効果があったかはわかりませんが、長男が3歳になってようやく一般的な子どもの体力にも追いつき、徐々に普通の生活ができるようになりました。私自身も口にするものを気を付けてからは、風邪を引かなくなりました」
育児を通して、“食”がいかに大切なのかを実感。「誰もが毎日行っている身近な習慣だからこそ、いい加減にしがち。たくさん改善の余地がある」と長田さんは話す。その魅力を伝えようと“食”に携わる職業を目指し、まずは栄養士の資格をとるために短期大学へ。
「食生活を変えて、びっくりするくらい自分自身も調子がよくなったんです。今まで、“食”がいかに大切なのかだれかに教えてもらえる環境におらず、気に留めていませんでした。そういう根本的なことを広めたいと思い、栄養士の資格を取ることに。短期大学に入るのですが、もちろん子育て真っ最中。当時は、自転車で学校に通いながら、保育園や学童の送り迎え。夜は、家事や子どもの宿題の面倒を見ていました。その間に、勉強がてら飲食店の皿洗いのバイトも。後にも先にもあんなにハードな日々はありません。この頃に比べたら大体のことは難なくクリアできます(笑)。慌ただしい毎日を送りながら、実は起業したのは在学中なんです。就職活動もしたのですが、ちょうど氷河期でどこにも入れなくて、自分で会社を作ることを決意。個人事業主として仕事をはじめ、卒業と同時に法人化しました」
起業して15年目を迎える長田さん。具体的には、どのような事業をしているのだろうか。
「以前は、名古屋を拠点に飲食店を経営していました。お肉のバイヤーとして、北海道から沖縄まで生産地をたくさん回っていた時期もあります。最近は、地方創生事業に力を注ぎ食品開発をしています。例えば、『とろっと甘い いいとこどり トマトJuice』は、飛騨の農家さんの濃厚なジュースに付加価値をつけてブランディングしました。『愛知幸田の消防カレー』は、幸田町の特産品である『夢やまびこ豚』や『筆柿ジャム』を使用しています。旅行先で、美味しいにもかかわらず今まで注目されていない食材を見つけたら、どのようにプロデュースしようか考えるのが好きなんです」

2020年には、『スーパーで買える「肉」を最高においしく食べる100の方法』(ダイヤモンド社)という書籍を刊行。主婦ならではの視点で考案された手軽に作れるレシピが満載だ。GINZA読者世代には、材料も少なく、時間をかけずに簡単に出来る「生姜焼き」や「照り焼きチキン」、「しゃぶしゃぶ」がおすすめとのこと。そもそも長田さんがお肉に魅了された理由とは。
「単純ですが、自炊するようになってから自分自身がお肉を食べたときの幸福感が高いことに気づきました。実際に、お肉に含まれているトリプトファンという成分が、俗に言う幸せホルモンであるセロトニンを増やすので、科学的根拠もあります。また、栄養学を学んでいくうちに、筋肉や臓器を作るエネルギー面でも素晴らしい食材だとわかりました。言いだすとキリがないのですが、お肉には、体内で賄えないアミノ酸や、女性にはうれしい鉄分が豊富なほか、免疫力をあげるNK細胞(ナチュールキラー細胞)を活性化させる働きも。よく太ると思われがちですが、赤身肉はダイエット効果も期待できます。もちろん、霜降りのカルビばかり食べていたらカロリーが偏りますけど、バランス良く摂取すれば代謝アップにも。調理も簡単で食べ応えがあって満たされるから、男の子が二人いる家庭では欠かせません」

そんな長田さんは猟師の資格も持っているんだとか。
「会社を立ち上げたばかりの頃、いつ潰れて破産するかわかりませんでした。そんなとき、自給自足じゃないですけど、なにかあったら子供に肉を獲って食べさせてあげようと猟師の資格を取りました(笑)」
息子さんが成人を迎え、子育てがひと段落した長田さんは経営を学ぶために今年大学院へ入学した。
「今、注力している地方創生事業では、持続的な内容にしないと地域活性化にはつながらない。長期的に雇用を生む仕組みを作り、女性や若者の経営者を支援したいと思い、自身のキャリアも見つめ直そうと進学しました。20代で起業して、40代で勉強……本来、順番が逆ですよね(笑)。でも、学ぶ刺激がある方が、常に成長できるんです。ほかにも、“食と精神”の関係について、研究をして社会貢献したいと思っています。栄養バランスで、人々の幸福度を上げることができるのではないかと考えています。口にするもので、性格が左右されたり、間違いなく集中力や記憶力も変わるので、どのように影響しているのか探っていきたいです」
🗣️
長田絢
料理研究家。料理番組やコメンテーターとしてテレビ番組に出演するほか、食品メーカーや家電メーカーとのレシピ開発を行う。講演会やセミナー、地方創生事業も積極的に活動。著書に『スーパーで買える「肉」を最高においしく食べる100の方法』(ダイヤモンド社)など。
Photo: Miyu Yasuda Text: Nico Araki