さまざまなフィールドで活躍する、新進気鋭のクリエイターにインタビュー。その独創的な発想力と、人を惹きつける魅力とは?創造の源に迫る。
初監督したホラーが大ヒット!双子のYouTuber ダニー&マイケル・フィリッポウがすごい
シーンを塗り替える表現者たちvol.06
ダニー&マイケル・フィリッポウ
YouTuber、映画監督
個人的な体験に基づく
オリジナルを書くために
オーストラリア出身で現在30歳の双子、ダニー&マイケル・フィリッポウ。ハリー・ポッターや『スター・ウォーズ』シリーズ、ドナルド・マクドナルド、クッキーモンスターといったポップ・アイコンが、どたばたバトルを繰り広げるパロディ動画で世界的人気を獲得したクリエイターだ。2013年、YouTubeチャンネル『RackaRacka』を開設した彼らは、いつも映画監督になることを夢見ていた。幼少期に初めて二人が手がけたホラー短編のタイトルは、『ドルフィン』だった。
「幼い頃から、映画のポスターを模写したり、90秒で一場面を演じたりして遊んでいました。親の都合で退屈な場所に連れて行かれたときも、ビデオカメラさえ持っていれば飽きることはなかった。最初に撮ったのは、姉の人形を壊してチャッキーのような殺人ドールに仕立て上げ、それが友達を襲うという内容の作品。トマトソースを大量に使いながら撮影し、その人形をしれっと姉の棚に戻して。その後、かなり怒られました(笑)」と振り返る。
彼らのモノづくりのベースとなる、もっともインスピレーションを受けた作品は子ども時代に読み耽った、アメリカの小説家ロバート・ローレンス・スタインの『グースバンプス』(鳥肌を意味する)シリーズだそう。また、名監督スティーヴン・スピルバーグ、ピーター・ジャクソン、エドガー・ライトからも大きく影響を受けたという。
映像づくりのモットーについてたずねると、「個人的な体験に基づいた、僕ららしいオリジナルの声となる物語を書くこと」とダニーさん。そして、「まわりからどんなにつまらないとダメ出しされても、自分たちの直感を信じ続けてきた」とマイケルさんが補足する。
そんな二人が、この冬、ネット界から飛び出し、映画館のスクリーンに表現の場を移行した。監督デビュー作となったホラー映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は、呪物の〝手〟を使って霊を呼び出し、自分に憑依させる「#90秒憑依チャレンジ」にのめり込み、思わぬ事態に陥っていく高校生を描く。23年サンダンス映画祭で話題を呼び、こぞって手を挙げた配給会社の中から、かのA24が北米配給権を勝ち取り、『ミッドサマー』を超える大ヒットを記録中だ。
長年、マルチタスクをこなし、意見をすり合わせながらコンテンツを生み出してきた彼らは、共同で監督する強みについて「仕事もストレスも分担できるところかな。全部を一人でやるなんて想像できない(笑)」と語る。本作で、ダニーさんは主に脚本・カラーグレーディング・VFXなどを、マイケルさんは音楽や音響デザインを担当。編集は一緒に行ったそう。劇中では、さまざまな色や音楽が、登場人物の行き先を暗示するメタファーとなっているのが印象的である。
「解釈は観た方の自由に委ねたいので詳しくは説明しませんが、僕自身、青、赤、黄といった特定の色を見ていると浮かんでくる感情があるんですよね。それぞれの環境で異なる感情を伝えられたらいいなと思い、セットデザイン、衣装、カラーグレーディングはそれを意識しています」(ダニー)
「オーストラリアのヒップホップをたくさん取り入れたのは、現代の若者のノリや作品のテーマをエモーショナルに語ってくれると考えたからです。ちなみに、呪いの手によってモンタージュされるシークエンスで流れている、エディット・ピアフの『群衆』のリミックス曲は、古代の遺物を新時代の子どもたちがいじくり回している状況を象徴しているんです」(マイケル)
今後も、本作の続編がA24で製作されるほか、対戦型格闘ゲーム『ストリートファイター』の実写映画の監督にも抜擢されるなど、ジャンルを自由に横断する活躍がますます期待される彼ら。現在は、ゲームのインスピレーション・ソースに積極的に触れながら、さまざまなアイデアを発展させている最中なのだとか。
「プレスツアーの合間をぬってタイに旅行したんです。キャラクターの一人、サガットのモデルになったと言われる実在するルンピニー王者サガット・ペッティンディーを探しまわって、なんと最終的に会えました(笑)!」
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ダニー&マイケル・フィリッポウ
1992年生まれ、オーストラリア出身の双子。2013年に開設したYouTubeチャンネル『RackaRacka』は総再生数15億回以上、682万人の登録者数を誇る。オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞最優秀ウェブ番組賞を受賞。
Photo: Shinsaku Yasujima Text: Tomoko Ogawa