『哀れなるものたち』(1月26日公開)の舞台は、19世紀後半のロンドン。自ら命を絶った女性ベラは、天才外科医の手術により、自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に命をとりとめる。“体は大人、頭脳はベイビー”という、恐れ知らずゆえの無敵モード全開なベラは、やがて冒険の旅へ。ビザールな魅力漂う作品世界を生み出した立役者の一人は、衣装デザイナーのホリー・ワディントン。本作でアカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされた彼女が語る、ヨルゴス・ランティモス監督や、エマ・ストーンとの遊び心に満ちた共同作業。
映画『哀れなるものたち』衣装のヒミツ
ホリー・ワディントンにインタビュー「エマ・ストーンのクレバーなアイデアが力になった」
──物語の舞台設定は19世紀後半ながら、ヨルゴス・ランティモス監督のインタビューによれば、衣装には1970年代の素材を起用したとのこと。どのような話し合いのもと、この時代に注目することにしましたか?
ヨルゴスは生粋の芸術家です。なおかつクリエイティブなプロセスの舵取りが巧みで、クルーに自由に発想する余地をくれます。そんな彼を信頼しているからこそ、私もアイデアボードや生地見本や色見本などを気兼ねなく見せられます。彼はすべての資料に目を通した上で、「このまま進んで」「次はあっちだ」と的確な指示をくれる。勇敢で大胆な仕事のやり方だと思います。多くの監督はもっと杓子定規ですから。
ヨルゴスが1970年代に言及したのは、当時のファッションがこの映画の世界観にすごくフィットしていたからでしょう。リサーチそのものは多岐に及びました。もちろん、(物語の舞台である)1890年代、つまりヴィクトリア朝後期の文献はかなり調べました。同時に注目したのは、エルザ・スキャパレリのような20世紀初頭のデザイナーや、シュルレアリスムのファッション。それからアンドレ・クレージュ、ピエール・カルダン、パコ・ラバンヌといった、1960年代に活躍し、当時における未来的なファッションの世界を生み出していたデザイナーたち。それにともない1960〜1970年代のビニール素材や、独特なテクスチャーの生地もたくさん見たわけです。
Text & Edit_Milli Kawaguchi