この夏の注目映画といえば、グレタ・ガーウィグ監督の『バービー』。マーゴット・ロビー演じるバービーが、ライアン・ゴズリング演じるボーイフレンド(?)のケンとともに、完璧なバービーランドから人間の世界へ行き……、というなんとも興味をそそる物語。ginzamag.comでは、グレタ監督のインタビューを日本最速でお届け。8月11日(金)の公開がより一層楽しみになる、言葉の数々をどうぞ。
映画『バービー』グレタ・ガーウィグ監督にインタビュー
「バービーの歴史には自分自身につながるテーマがある気がした」

──映画『バービー』を鑑賞し、とても気に入りました。私はバービー人形で遊んだことはないのですが、それでも大好きになったんです。
それは嬉しい! でもあなたこそが、まさにターゲットとする観客。バービー人形で遊んだことがなくても、たとえバービーがなんなのかをまったく知らなくても楽しめる作品になっているはず。
──スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』を思わせるオープニングから大笑いのスタートで。
よかった! あのアイデアをオープニングに使うってひらめいた時、「でもそんな難しいこと、どうやったら実現できる?」って考え込んでしまって。結局、私たちはあのセットをそのまま築いた上で、キューブリック監督が撮ったカットやシーンを再現したんだ。大変だったけど、素晴らしい経験だった。
──バービー人形は現在、女性の活躍や多様性を推し進めるエンパワーメントの象徴になっています。そこに至るまでの60年以上にわたるバービー人形の歴史は、この物語を作る上でどう影響しましたか?
私は1983年生まれで、バービーの存在はもちろん知ってた。ただ母はバービーが嫌いで、「自分の娘に持たせるものか!」って感じだったんだ(笑)。でも結局、近所の友だちがお古を譲ってくれて、ようやく自分のバービー人形を持てた。
賛否両論ある中で、バービーがこれまでどう変化してきたか。マテル社がバービーの世界をどう前進させてきたか。バービーとは何を意味するものなのか。バービーの歴史には探究すべきものが多く詰まってた。ある意味、そこには何か自分自身に共通するテーマもある気がした。というのも、私はいつだって個人的な映画を作っているから。前作『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』も原作があったけど、セリフはすべて個人的に共感できる言葉だった。
だからバービーに対しても、自分なりの脚色の仕方を見つけたくて。いったいどこから始めればいいのか、切り口の多さに呆然としてしまったんだけど、まずは自分が刺激的に感じる部分から築き上げていくしかないって思ったんだ。
──何が突破口になったのでしょうか?
プロダクションデザイナーのサラ(・グリーンウッド)や、衣装デザイナーのジャクリーヌ(・デュラン)と話すうちに、気づきがあった。遊び心があり、生き生きとして、清らかで、目に楽しいこと。この映画のデザインにおいては、そういう感覚が重要なんだって。
私はすべての要素を、まるで手で触れたかのように、触覚的に感じられるようにしたかった。だから、セットはすべてミニチュアサイズで作ると同時に、部分部分をビッグスケールでも作ったんだ。両サイズのセットを交互に使い、主演のマーゴット(・ロビー)を小さくしたり、逆に人形を大きくしたりすることで、ワンダフルで奇妙な感覚を生み出したくて。
そのためにどんな方法論があるか、ミーティングには多くの時間をかけた。サラやジャクリーヌ、そして撮影監督のロドリゴ・プリエトが私と一緒になって、世界観を実現してくれた。
──衣装デザイナーのジャクリーヌ・デュランとは、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』に続いてのコラボレーションです。今回はどんな話をしましたか?
私たちの間にはすでに、多くを説明しなくても通じ合える関係ができていた。しかも、同じものを嫌い、同じものに惹かれるような感じで。私が何かに対して「ウエー、それは好きじゃない」ってなると、彼女も必ず「私も」ってそっくりな反応をするわけ。
バービーのファッションには、ある哲学があって。ジャクリーヌいわく、「バービーはただ服を選ぶのではなく、いつもその日の行動にあわせて選ぶ」。それから、「自分自身のために服を選んでいる」とも。何をするかにあわせて目一杯おしゃれをしながら、自分が楽しいと思える格好をしているってこと。
──他人の目を気にしての服装ではなく、ですね。
ええ。ケンのために、自分が着る服を選んでるわけじゃないのは確か(笑)。それに、他の女性に素敵だって思われるためでもない。自分でいいと思えるものを選んでいる。マテル社にバービーのファッションのアーカイブがあったから、その中から特定のルックを再現できた。と同時に、臨機応変にアイデアも盛り込んだ。
重要だったのは、サイズ感。たとえば、プリント柄がやたら大きい。人形の服って小さいから、それを人間の大きさで再現するとなると、柄自体は大きめになる。同じようにボタンもマジックテープも大きいし、ジュエリーだってそう。ビッグなイヤリング、ビッグなネックレス、ビッグなブレスレット。だけど、指輪はしない。バービーはそんなデリケートなものは身につけない。そういうことを話し合って決めていった。
──特にお気に入りの衣装はありますか?
たくさんあって選ぶのは難しいんだけど……、バービーとケンがバービーランドから現実の世界に向かう途中で、さまざまな乗り物に次々と乗るシーンがあるんだ。乗り物によって服装も変わるんだけど、二人乗り自転車に乗る時の衣装がもう最高で。二人とも、レーダーホーゼン(*ドイツ・バイエルン地方の伝統的な革製ショートパンツ)みたいなショーツを履いてて、それがなんとも奇妙で。まるで19世紀のオランダの子どもみたいで、とってもおかしくて大好き(笑)。マーゴットとライアン(・ゴズリング)が撮影現場に現れた瞬間、思わず「オー・ノー! 二人がそんな格好してるなんて信じられない!」って叫んだくらい。
Interview: Yuka Azuma Edit&Text: Milli Kawaguchi