映画業界で日々、小さな見えにくいハラスメントにさらされながら働く、若い女性の1日を描いた映画『アシスタント』。監督はドキュメンタリー畑出身で、長編3本目にして初のフィクションに挑んだキティ・グリーン。今作に込めた思いはもちろん、偉大な先輩であるジェーン・カンピオンからもらった、女性監督ならではのあるアドバイスについても語ってくれた。
『アシスタント』キティ・グリーン監督にインタビュー
“最底辺”の目線から、#MeTooを語り直すこと

──今作の主人公は、映画プロデューサーを夢見て有名エンタメ企業に入社したばかりのジェーン(ジュリア・ガーナー)。会長である大物プロデューサーのジュニアアシスタントとして働く彼女は、この1日の物語において、会長が性的搾取者だという事実に直面します。問題を描く上で、あからさまな被害者や加害者ではない立場のキャラクターを主人公にした理由は?
もともと映画業界における性差別や、性的虐待を黙認するような文化に注目していました。映画を作るきっかけはハーヴェイ・ワインスタインのスキャンダルですが、これは一人の悪人だけの問題ではありません。もっと広い視野で企業や権力構造を取り上げること、そして、職場で女性が日々どう扱われているかに目を配ることが必要だと思いました。
──早朝から深夜まで事務作業に追われ、厄介な仕事を押しつけてくる同僚にストレスを感じながら、直属のボスのことで葛藤するジェーン。本来は光が当たらないタイプの主人公を描く、あまり前例がない物語ですが、どのようにこの映画ならではの語り口を見つけていきましたか?
すべての#Metoo問題がどのように発生するのかを見せたかったんです。そのためには、権力構造を調べ上げる必要がありました。誰がトップにいて、誰が底辺にいるのか。ひどい振る舞いをする人たちが、なぜトップにい続けることができるのか。彼らを守る周囲の構造とはどんなものか。その上で私たちが考えたのは、注目すべきは悪事を働いたボスではなく、権力とはかけ離れた、嫌でもボスを補佐しなければならないアシスタントだということ。ジェーンは自分が何に巻き込まれているのかを知っているのか。事実に気づいたとき、彼女は声を上げられるのか。こういった疑問は、私にとって興味深いものでした。
──監督にとっては今作が初めてのフィクションです。これまでドキュメンタリーを撮ってきましたが、アプローチは変わりましたか?
いえ、変わりません。映画を作るときはいつもテーマをふまえ、このストーリーを語るのに最も適した方法はなんだろうと考えます。過去作ではドキュメンタリーが有効でした。でも今回は日常的な性差別など、無視されうるような瞬間にも目を向けたいと思って。フィクションならクローズアップや音響を使って、些細な瞬間を強調することができます。小さなディティールをあえて大きなスケールで見せることで、問題の深刻さを伝えたかったんです。
Edit&Text: Milli Kawaguchi