真摯な語りの中にふっと笑いが紛れ込む、独特のリズム。のびのびとした自在な思考は、どこか凛としてもいる。「初めまして」と「久しぶり」が混在した、最新の出演映画『怪物』についてインタビューした。
永山瑛太 ストイックに遊ぶひと
映画『怪物』インタビュー

監督・是枝裕和、脚本・坂元裕二、音楽・坂本龍一。安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、田中裕子という豪華布陣。先日の第76回カンヌ国際映画祭で、脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した映画『怪物』がいよいよ公開した。
「台本を初めて開いた時は、人間の心理としてどうしてもタイトルに影響され、怪物探しをしてしまったというか。でも、全然違う物語なので。坂元さんの作品に触れる時の感覚としていつもそうなんですが、もうこの人大好き、と思わされる。〝また別の世界〟を坂元さんは作れるんだなぁと今回も実感しました」
シングルマザーの麦野早織(安藤サクラ)はある日、息子の湊(黒川想矢)から、担任教師の保利(永山瑛太)にモラハラを受けたと打ち明けられる。同じ出来事が視点を変えて繰り返し描かれるうち、思いがけない結末に至る一作。
「是枝さんが撮るし、坂元さんの脚本だし、素晴らしい作品ができる確信は最初からありました。そこに自分がキャスティングされている恍惚感。その時点で、どういう芝居をしたいとか、承認欲求みたいなものはほぼなくなってしまった」
永山は坂元と、ドラマ『それでも、生きてゆく』『最高の離婚』などで組んできた。聞けば、2018年放送の『anone』の打ち上げで連絡先を交換したという。もしや『怪物』について事前に何か聞いていたり?と尋ねてみる。
「多分聞いてないかな。普段は仕事の話をするより、僕から坂元さんにポエムみたいなメールを送ったりして。たとえば『朝ってなんだろう』って考えた長文とか。それに、坂元裕二節の返信が来るのが嬉しいんですよ。とても幸せな気持ちになれるんです」
坂元ワールドに欠かせない存在である永山。坂元は、保利役は当て書きだと公言している。
「保利は真っ当に教師をしてきたつもりが、生きることさえつらい状況に追い込まれる。やっぱり、僕は生きづらさを抱えている役なんだなって。坂元さんとご飯を食べに行っても、生きづらいなんて言ってないのに(笑)。そういうのが出ちゃってるのかわかんないですけど。連続ドラマは放送しながら作っていくので、僕が演じたものを坂元さんが抽出し、続きの台本がふくらみ変化していくこともあります。でも今回は映画で、台本は当然ただ一つしかなくて。そんな違いもわりと新鮮でした」
是枝監督と仕事をするのは初めてだが、その作品には感銘を受けてきたという。
「20代前半で『DISTANCE』や『誰も知らない』を観た時から思っていたことですが、是枝さんは映画で国を変えるくらいの大きなエネルギーを持っている気がします。日本がどういう立場に置かれ、人々がどんな思いを抱えているのか、このまま行くとまずいんじゃないか、など、是枝さんの映画に気づかされることが多くある。実は以前も一緒にやる話があったんです。その時は企画倒れになっちゃって」
満を辞して臨んだ是枝監督の撮影現場では、演じやすい環境作りが心に残ったそうだ。
「是枝さんとは現場でもそれ以外でもあまり話さない。その距離感はずっと変わりません。罵声が飛び交うことも一切ない現場ですし、保利でいられる環境が整っていたというか。ロケ地の諏訪は、自然の活力がみなぎった場所で。ちょうど7年に一度の御柱祭が行われ、祭りの後の静けさみたいな余韻もありながら。毎日、自分で車を運転して、宿から諏訪湖を挟んだ反対側にある校舎での撮影に通っていました。スタッフ・キャストみんな宿が同じだったんですけど、なぜか僕は是枝さんの隣の部屋。意図があったのかはわかりませんが、音には気を遣って生活してました(笑)」
さらに、「今回は、俳優として現場にいる、っていうことじゃなかったのかも」と言い加えた。
「初日の夜、是枝さんからメールが来たんです。『今日はお疲れさまでした。私は保利先生を理解しました』って。おかげで安心したと言いますか。難しく考えず、そのままでいいんだなって。セリフを覚え、衣装とメイク、あとは心身の健康をベースに、現場に行ってセリフを言えばいいし、動きたくなったら動けばいいし。自分の解釈した保利として、目の前で起きること一つ一つに反応していきました」
安藤サクラとも、演技で直接絡むのは初めてだったという。
「うそがない素直な人で、エネルギーをもらいました。役柄上はちょっと面倒くさい関係性だったから、現場ではあんまり話さなかったんです。でも、すっごく好きな女優さんですし、同世代の中でも日本映画界を引っ張っている存在で。別の役でもまた一緒にやりたいですね。さすがに『怪物2』はないと思うので(笑)」
衣装:スーツ ¥594,000、シャツ ¥75,900(共にジョルジオ アルマーニ | ジョルジオ アルマーニ ジャパン)
Photo: Wataru Kitao Styling: Takashi Usui (THYMON Inc.) Hair&Make-up: Kaori Hatano Text: Milli Kawaguchi