『アイヌモシㇼ』の福永壮志監督が、18世紀後半の大飢饉にみまわれた東北で、先代が犯した罪により村人から蔑まれながらもたくましく生きる女性を描いた『山女』。柳田國男の『遠野物語』に着想を得た本作で主人公の凛を演じるのは、『樹海村』『ひらいて』『彼女が好きなものは』(21)など出演が続く、注目の実力派俳優・山田杏奈さんだ。
山田杏奈が『山女』で見出した、いつの時代も変わらない人間性とは?

──日本が舞台でありながら、違う国のファンタジーのようにも思える作品でしたね。
海外との共同制作ということで、スタッフも海外の方が多かったからか、別世界を切り取ってるみたいな感じがありますよね。森に対しても、日本の人だったらこうはならないだろうという撮り方をしているなと思いました。勝手なイメージですが、日本的な森に見えないっていうんですかね。青い色味だからなのか、なぜかは自分でもわからないのですが。
──確かに、ちょっと吸い込まれてしまうような、ヨーロッパの濃い森のような感じもしました。
空気が冷たい感じがしますよね。でもパワーがあって、美しい。日本の昔話なのに、日本とはちょっと違うと感じさせる要素があって、そこがすごく面白いですよね。どこの国であるかはあまり重要じゃないんですよね、きっと。日本の話だと聞くと、なぜか知っている話のような気がしてしまうけれど、『山女』はまた違う世界というか、先入観のない目線で見られるかのなと感じました。
──18世紀後半が舞台の柳田國男の『遠野物語』に着想を得た本作は、現代とすごくつながる貧困や差別の問題について触れている物語でもありますよね。
撮影していたときは、正直あまり意識していなかったのですが、公開の時期になって、現代と通じるところがあるなと感じるようになりました。例えば、私が演じた凛は村や自分の家にいるときには、家族として、母や妻のような役割を強いられ、ヤングケアラー的な存在として、 ただの個人ではいられない状況にある。それがすごく辛いなと思いながら演じていましたが、いつの時代も変わらないのだなと思いました。

──本作は、人々を支える信仰の力強さ、危うさついての物語でもあります。そういう民族宗教にはどんな思いがありますか?
今だったら、(飢饉の理由も)科学で解明できるかもしれませんが、当時は無理矢理、何か違うもののせいにしたり、生贄を差し出したりすることで苦しい状況を収めようとしていた。この映画もそういう話ですし、例えば、大仏が建てられたのも人々の不安を取り除くという理由からですが、何かを信じることが全てで、そこにしか拠り所がないと思えるという行為は、すごく興味深く、面白いなと思います。
──山田さんが個人的に何か信じているもの、これは信じられるという何かってありますか?
えー、なんですかね。現場で生み出されるものに関しては、確かに信じていますが、それこそ流動的なものだとも思うので。正解がないわけですけど、完成したものにはひとつのシーンが正解として使われることになるので、その場の空気みたいなものは信じています。結局、それが全てだと思います。
──『山女』の場合は、どんなところにその空気を感じていたのでしょうか。
着ているものの感触だとか、 わらじを履いたときのチクチクする感じとか、土に足の端っこが触れたときの感触とかは、凛と同じだなと信じていました。そういうものは、必ず凛が感じているものだなと思えたので。それ以外のところは、正直、自分の想像と言ってしまえば、自分の想像なんですけどね。
──監督である福永壮志さんとの対話で印象的だったものがあれば教えていただけますか?
演技についてというよりも、日本人はあまり自分のルーツを気にしないよね、というような話ですかね。監督は、長くアメリカに住んでいらしたので、当たり前にいろんな人がいる環境にいて、自分のルーツにもう一度目を向けようとしていたときに、「遠野物語」に興味がわいたということでした。福永さんが、日本や日本人に対してどんな考えを持っているのだろう、ということにも興味がありましたし、私自身が、日本や自分の民族性についてあまり考えたことなかったな、とその時に感じたことを覚えています。

──改めて、自分のルーツというものを考えるきっかけにもなったんですね。
そうですね。村社会の話って、いろんなところにありますけど、日本人という国民性がその閉鎖性を生み出すのかなとか、時代がそうさせるのか、 それともそこにいる人々がたまたまそうだったからなのかなど、色々と考えました。
──本作の魅力は、山田さんを含め、森山未來さん、永瀬正敏さん、二ノ宮隆太郎さんと素晴らしい役者さんたちの掛け合いから生み出される世界観でもありますが、現場はいかがでしたか?
本当に共演者のみなさんの役としての説得力が、素晴らしかったです。(村を追われた凛が山奥で出会う)“山男”を演じた森山さんはセリフこそありませんが、動物が一匹いる……みたいな。歩き方から全然違いましたし、寝ているシーンのときに、大きいトトロみたいな呼吸をしていて。普通だったらそんなことは思えないはずなのに、見た瞬間、この人は山男だと思えるということ自体、森山さんって本当にすごい!と圧倒されました。永瀬さんは、娘である凛に罪を被せるような父親の役でしたけど、現場では本当に優しくて、色々なことをお話してくださいましたし、二ノ宮さんは、彼自身の素敵さが役にそのまま入っているなと思いました。
──山男は、残虐にも優しくもなる自然そのものという印象を受けました。山田さんは、自然のある場所に意欲的に訪れるタイプですか?
小さい頃は、父がキャンプによく連れて行ってくれたのですが、最近はなぜか撮影で行くことが多いですね。偶然が重なり、富士の樹海で撮影をしたり、雪山で撮影をしたり。意外と都会にいるより自然の中にいるかもしれないです(笑)。ただ、行くたびに、その大きすぎる存在を感じるので、こちらがお邪魔させてもらっている、という気持ちではいます。なぜかというと、家でこういうお芝居の方向性かなと用意していたことも、山や森という環境の中に来ると、ちょっと違うかもしれないと思うことが結構あって。そういう力は、怖さでもあるというか。自然の脅威というものを、ちょっと実感するような瞬間があるんです。

──話は変わりますが、山田さんは昨年、『夏の砂の上』で初めての舞台出演を経験されましたが、そこで何か新たに感じたことなどありましたか?
始める前は、舞台、多分しんどいのだろうなと想像していたんですね。スキルが足りないし、すごく怖かったのですが、いざやってみたら、緊張ももちろんしましたけど、その上で、稽古中にこれだけ練習してきたんだから!という裏付けが自信につながっていくというか。加えて、昨日はこうだったけど、今日はこうしてみようという挑戦もできて、舞台って、こういうのがすごく楽しいんだなと思いました。その経験映像にどう応用できるかは、まだ自分でもわからないのですが。
──舞台、ハマりそうな予感はありますか?
もう一生やりたくない!とは思わないです(笑)。割と好きなのかもしれません。栗山民也さんという偉大な演出家のもとで出演させてもらえたのも大きかったと思います。映像とは全然違う、面白い世界でしたね。お芝居の新しい楽しさも見つけられましたし。
──最後に、個人的に収集しているファッションアイテムや、好きで集めてしまうものなどがあれば、教えてください。
アクセサリーが好きなのですが、現場でつけたり、外したりが結構大変なので。指輪だったら、割と管理がしやすいので、色々集めています。細いゴールド系の指輪が多いのですが。
──集め始めたきっかけがあったのでしょうか。
成人した時に、 両親からカルティエの指輪をもらって。それが初めてのちゃんとしたジュエリーだったんです。自分が「欲しい」と言ったんですけどね(笑)。それをきっかけに、集め始めて。初めて親にもらったという記憶がずっと残るし、自分で買っても、あの時にああいう気持ちで買ったと思い出せる、それがいいなと思っています。
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『山女』
大飢饉に襲われた18世紀末の東北の寒村。先代の罪を負った家の娘・凛は、人々から蔑まれながらも逞しく生きている。ある日、父親・伊兵衛が村中を揺るがす事件を起こすし、罪を被った凛は、村を去り、禁じられた山奥へ足を踏み入れる────。
監督:福永壮志
脚本:福永壮志、長田育恵
出演:山田杏奈、森山未來、二ノ宮隆太郎、三浦透子、山中崇、川瀬陽太、赤堀雅秋、白川和子、品川徹 、でんでん、永瀬正敏
配給:アニモプロデュース
2022年/98分/G/日本・アメリカ合
6月30日(金) ユーロスペース、シネスイッチ銀座、7月1日(土) 新宿K's cinema他全国順次公開
©YAMAONNA FILM COMMITTEE
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山田杏奈
2001年1月8日生まれ、埼玉県出身。2011年『ちゃおガール☆2011 オーディション』でグランプリを受賞しデビュー。2018年『ミスミソウ』で映画初主演。2019年『小さな恋のうた』第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞。その後数多くの映画・ドラマに出演する。2022年は、ドラマ『未来への10カウント』『17才の帝国』『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』『早朝始発の殺風景』等、話題作に多数出演、また初の舞台作品となる『夏の砂の上』へ出演を果たした。
Photo:Koichi Tanoue Styling:Marie Takehisa Hair&Make-up:Fumi Suganaga(Lila) Text:Tomoko Ogawa