コロナ禍の静まりかえった香港の片隅で、ひっそりと生きる人々にフォーカスを当てた映画『星くずの片隅で』。香港のアカデミー賞と称される「香港電影金像奨」で10部門ものノミネートを果たした本作で、したたかだが憎めないキュートなシングルマザー・キャンディを演じたのがアンジェラ・ユン(Angela Yuen)。2018年の映画『宵闇真珠』ではオダギリジョーと共演し、Vaundyのミュージックビデオや銀杏BOYZのCDジャケット、川島小鳥の写真集等で日本での注目度も高く、“アジアの新ミューズ”と呼ばれる彼女に、映画のことに加え、日本のカルチャー愛等、プライベートのことも聞いた。
アジアの新ミューズ、俳優アンジェラ・ユンにインタビュー
映画『星くずの片隅で』とカルチャー愛について
──『星くずの片隅で』の出演オファーがあった時はどう思いましたか?
香港映画は男性目線の作品が多く、女性目線の作品が少ないんです。でも『星くずの片隅で』は男性のザクから見た社会という視点が中心でありながら、シングルマザーのキャンディの視点が多く盛り込まれているので、今の時代に合っていて、とても興味深いなと思いました。最初に企画を聞いた時から「ぜひ参加したい」という気持ちを抱きました。
──ユンさんが演じたキャンディは、コロナ禍で逞しく生きるシングルマザーです。演じる上で意識したことはありますか?
一番大事なのは、キャンディが働き始めるクリーニング店の経営者であるザク、そして娘のジューとの関係性をいかに自然に見せるかだと思いました。脚本上、特にドラマチックな出来事は起こらずに、キャンディたちの日々がゆるやかに描かれているので、自然に見せることに集中すれば、良い仕上がりになるのではないかと思いましたね。
──ザクは奔放なキャンディに徐々に惹かれていきますが、ふたりの関係性は曖昧です。それをどう捉えましたか?
私個人の好みとしては、激しい出来事が起きたり、はっきりとした関係性を描いた作品の方が好きなんです(笑)。曖昧な関係性っていうのは実際にはあまり成り立たないんじゃないかなって思うんですよね。でも『星くずの片隅で』は、コロナ禍という困難な時期において、あまり知らない者同士でも、思いやりを持って助け合いながら生きていくことの大切さというテーマが軸にあるので、キャンディとザクの関係性は自然と飲み込めました。恋人同士ではないけれど、お互いにとって大事な存在ですよね。
──キャンディの生きざまからどんなことを思いましたか?
キャンディはどこか無責任なところがあって、そこは私とは違うタイプではありますが、面白いなと思いました(笑)。生活することが困難な状況で、物を盗むしかなかった。今の資本主義に対する批判も感じられる描写はとても共感できました。また、キャンディは貧しい生活を送っているけれど、とてもポップなファッションを好んでいます。精神的には貧しくなっておらず、自由に生きているところにも惹かれました。
──ラム・サム監督は、今ユンさんがおっしゃったような社会情勢を反映する作風で知られています。『星くずの片隅で』において、今の香港がよく出ているなと思ったところはありますか?
ラム・サム監督と同世代の監督たちの多くは、今の香港のリアリティを描きたいという気持ちを強く持っていると思います。香港は大都会で華やかなイメージがある一方で、格差社会で貧しい生活を強いられている人たちがたくさんいます。5人に1人が貧困層だと言われているんですよね。でも、そういう人たちにスポットが当てられることはあまりありません。ラム・サム監督が『星くずの片隅で』を作った大きな理由のひとつに、そういう人たちにフォーカスしたいという気持ちはあったと思います。ザクは小さなクリーニング店の経営者で、毎日お客様のために懸命に働いているにもかかわらず、彼らの存在を意識している人は多くはないです。そんな彼らの存在を通して、監督は今の香港のリアルを表現しようと思ったのではないでしょうか。
Photo: Hikari Koki Text&Edit: Kaori Komatsu