過去でもなく未来でもない。見たことはあるけれど、存在はしない。そうしたアートを生み出し続けている、フランスのアーティスト、ローラン・グラッソ。現在、六本木のギャラリー「ペロタン東京」で、彼の個展が開催している(会期は2024年2月24日まで)。2008年に、フランスで最も革新的なアーティストに与えられるマルセル・デュシャン賞を受賞。日本での個展は、2015年に銀座メゾンエルメス フォーラムで開催した「Soleil Noir」以来となる。黒の異物が浮遊するコンセプチュアルな新作を引っ提げて来日したローランにインタビュー。作品づくりの背景や、表現の裏側について聞いた。
💭INTERVIEW
ローラン・グラッソが表現する、目に見えないものの正体とは
黒の異物は雲か?亡霊か?
──今作の舞台となったのは台湾の蘭嶼(ランユィ)島。なぜこの地に着目を?
私のスタジオには6人のメンバーがいて、世界中を対象にしてそれぞれの場所の性質をリサーチしながら題材を探ります。今回は、美術史の中で“自然”がどのように描かれてきたかを起点とし、“自然”が純粋な状態で存在している場所を描きたく、エキゾチックでトロピカル、ジャングルのようなこの場所にたどり着きました。
自然という概念は、探検家時代(植民地時代)に欧米が南米を訪れたことから生まれたという説があります。現地の人にとっての日常を外から訪れたものが見て’自然’と定義した。今は自然も人間も対等だという考えが一般的ですが、こうした前時代的な概念に一度立ち返ってみたいと思ったのです。
──着想源になったものはあるのでしょうか?
過去には日本のクラフトにも影響を受けてきましたし、さまざまなインスピレーションを受けてきましたが、今作においてはロバート・フラハティ監督の映画『Moana』(1926)でしょうか。太平洋の島に監督自身が滞在し撮影したドキュメンタリー作品で、現地の方々たちの生活が楽園的に描かれています。しかし、この映画が公開した数十年後にフランスが核実験を行ったことで、現在はそうした歴史的背景を持つ場所という側面も生まれました。だからこそ、過去の西洋的な視点から見た自然の描写に改めて興味を持ったのだと思います。現に、蘭嶼島も美しい島ですが、実際は同様の暗い背景を持っています。
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Photo_Hikari Koki Text_Mio Koumura