『0.5ミリ』から10年。新作を首を長くして待つファンも多いのでは?高知への移住を経て、さまざまな活動を繰り広げるなかでその軸はブレていなかった。彼女が見つめる“映画の向こう側”をインタビュー。
安藤桃子、場所をつくってアクションにつなげる
フィルムメーカーが描く未来

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安藤桃子
あんどう・ももこ>> 1982年、東京都生まれ。ニューヨークで映画づくりを学び、2010年『カケラ』で脚本・監督デビュー。長編小説『0.5ミリ』を執筆し、13年に自ら映画化。ロケ地である高知市に14年移住し、23年秋に映画館「キネマ ミュージアム」をオープン。
まちの文化の発信拠点
独自の劇場づくり
映画界広しといえども、常設の映画館をつくってしまった監督はあまりいないのではないか。撮影をきっかけに高知市に移り住んだ安藤桃子さんは、まちなかにそんな〝場所〟をつくり、自身で運営している。
「箱としては、60席ちょっとと小さめ。だけど一歩足を踏み入れたら、無限の宇宙空間のような世界が広がっている。映画館ってそういう場所だと思うんです。感動や才能を、そこにいる人たちと分かち合えるところであってほしいから」
きっかけは、高知でロケをした監督作『0・5ミリ』の公開のタイミングでつくった「キネマM」。作品のために特設した、約2カ月間の期間限定だった。
「何もなかった場所にフラグを立てたことで、人の流れが一気に変わったのを目の当たりにしたんですよね。その後、取り壊しが決まっている空きビルに場所を移して、1年半ほどミニシアター 『ウィークエンドキネマM』を開きました。ギャラリーをはじめ、マルシェなどのイベントも計画して、映画だけではないカルチャーの拠点になってきて。気づけばまちが活気づき、文化の力を実感しましたね」
2019年の閉館後、新たな映画館を計画し始めたところに、コロナ禍が襲った。 「どうしようと思ったこともたくさんありましたが、そんな状況を経て、コンセプトがもう一段深まった気がします。映画を通じてこの世界に届けられるものってなんだろう?って。さらに一歩踏み込んで考えられた時期でもありました」
施工もいろいろな問題にぶち当たった。マンションの1階という構造上、上階の住宅への影響を回避しなくてはならないが、その難題に挑戦してくれる業者がなかなか見つからなかったそう。
「ようやく出会えた音響会社と一緒になって、防音はもちろん、映画が発する音だけでなく、自然界の周波数をも発生させるような音響空間にもこだわりました。床下には炭を敷いたり、ラウンジの壁を土佐漆喰で塗ったり、とことん心地よさも追求して。
あと、デジタルだけでなくフィルム上映も叶えたかった。普通は見えない場所にある映写室を可視化させたくてガラス張りに。〝映写室は映画を届ける宇宙船の操縦室だ!〟という発想で、床にはスペースシャトルに使われている塗料を取り入れました」
もはや〝安藤桃子の作品〟ともいえる「キネマ ミュージアム」が、昨秋ついに完成。〝ミュージアム〟としたのは、ギャラリーやカフェも併設し、映画に限らずいろいろな可能性が広がっていく場に、という思いが込められている。

Photo_Wataru Kitao Text_Ichico Enomoto