『ドライブ・マイ・カー』の監督・濱口竜介×音楽・石橋英子が再び組んだ最新作『悪は存在しない』(4月26日より全国順次公開)。企画の始まりは、石橋さんが濱口監督にライブ用映像の制作を依頼したこと。そこから本作が完成するまでに、お二人が口を揃えて「綱渡りのようだった」と言うほど、偶然的でユニークなプロセスを辿ったとか。前編では、濱口監督にお話を伺います。【後編】はこちら「石橋英子が明かす、濱口竜介監督の音楽センス。」
濱口竜介監督が語る、石橋英子との共犯関係。「この映像にどんな音楽をつけますか?」と委ねるつもりで
映画『悪は存在しない』ロングインタビュー【前編】
──濱口監督は今までtofubeatsさん、阿部海太郎さんと、錚々たるミュージシャンの方々に映画音楽を依頼されてきました。中でも、石橋英子さんとの創作上の共犯関係はますます濃密になっていると思うのですが、『ドライブ・マイ・カー』で出会われて以来どんな発見がありましたか?
石橋さんと組んで感じたことは、うまく言語化できるかわからないけれど、生み出される音楽それ自体が一つの風景として存在しているというか。風景は視覚的なもの、ショット的なものです。
映画そのものに1から10まで沿ったような、べったりしたタイプの音楽なら、そんなに使う意味はない。けれど、石橋さんの音楽はそれ自体で存在していて、その独立性が、映像と音楽の関係として気持ちいいなと。かといって映像を無視しているわけではまったくなく、映像を解釈していながらも一つの音楽として在るんです。
今回の『悪は存在しない』では、自分がこれまで作ってきた言葉数の多い作品とは違い、言葉がなくとも自ずと何かを語りかけてくる映像、つまり音楽的な映像作りを目指したのですが、それと対照的に、石橋さんの音楽はまさに映像的だと思います。
Text & Edit_Milli Kawaguchi