2022年にシーズン1がリリースされるや、全世界1億人以上が5億時間以上もストリーミング視聴した、Amazonオリジナルシリーズ『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』。J・R・R・トールキン著『指輪物語』を原作に、戦乱の世を描いており、現在シーズン2まで配信中だ。先日のAPACプレミアに登壇したショーランナーのJ・D・ペインや、伝説のヴィランであるサウロン役のチャーリー・ヴィッカースら、総勢10名を直撃。それぞれの視点から、この新たなファンタジー巨編について語ってもらった。
製作費はTV史上最高額。『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』総勢10名にインタビュー
『指輪物語』の幻想的な映像美に、現代の文脈をプラス。「テーマは今必要な“寛容さ”」

イギリスの作家、J・R・R・トールキンがヨーロッパの神話伝承に影響を受けて綴った、壮大なファンタジー小説『指輪物語』。2000年代に大ヒットした映画シリーズは、同作の第3紀が舞台。そのはるか数千年前である第2紀の、伝説の英雄たちを初めて映像化したのが、現在Prime Videoにてシーズン1〜2が配信中の超大作シリーズ『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』だ。
Amazonオリジナルシリーズといえば、これまで“アンチヒーローもの”のブラックコメディ『ザ・ボーイズ』(19〜)や、自由奔放な30代女性が過去のトラウマと向き合うまでをヒリヒリと描いた『Fleabag フリーバッグ』(16・19)など、多様な作品が高く評価されてきた。
そんなAmazon肝入りのファンタジーシリーズとして、本作はシーズン1の時点で4億6500万ドルともいわれる膨大な予算を投じ、原作の幻想的な世界観を見事に視覚化。またハイクオリティなバトルシーンでも高評を得ている。シンガポールでおこなわれたシーズン2のAPACプレミアでは、現地の映画館でエピソード1〜2を観ることができたのだが、大スクリーンにも映える映像美はまさに圧巻。なおシーズン2の予算は、前季を大幅に超えたともいわれる。
8月末にリリースされたシーズン2では、エルフ戦士のガラドリエル(モーフィッド・クラーク)によって追放された冥王サウロン(チャーリー・ヴィッカース)が、その狡猾さと姿を自在に変えられる能力を武器に、中つ国のすべての民を自らの意思に縛りつけることができる“力の指輪”の鋳造を目論み、高明なエルフ鍛治ケレブリンボール(チャールズ・エドワーズ)を訪ねる。
エルフ、ドワーフ、オーク、人間、魔法使い、ハーフットなど、さまざまな種族が入り乱れ、己の大切な人やものを守るべく、過酷な戦いに身を投じるさまを映し出す。
「悪役を演じようとはしていなかった」
群像劇ゆえ「主人公は誰」と断言するのがなかなか難しいのだが、あえて言えばメインビジュアルにも登場しているサウロンがシーズン2の主役かもしれない。『指輪物語』ワールドにおける最凶のヴィラン……なのだが、役を演じたチャーリー・ヴィッカースによれば、「悪役を演じようとはしていなかった」。というのも、サウロンにある種の“純粋さ”を感じとったからだという。
「サウロンが目指すのは、中つ国を清め、癒すこと。自分自身のことも、汚れのないピュアな存在だと捉えているんじゃないかと思います。特にシーズン2でサウロンは“アンナタール(物贈る君)”に姿を変え、天使のように神々しい優美な外見になりますから。その自らのイメージを反映するかのように、この世のすべてを清潔で整然としたものにしたがっているんです。側から見れば明らかに恐ろしい人物だけど、本人としては秩序を重んじていて、正しいことをしている気でいる。そう考えて演じていました」
今シーズンのエピソード1ではサウロンの過去が回想される。かつて裏切りに遭って滅びたのち、ハルブランドの姿でよみがえるシーンにおいては、自身の復活を喜ぶような無邪気な笑顔を浮かべる。そのヴィランらしさとは程遠い表情に驚かされた。
「そう受け取ってくれて嬉しいです。サウロンにとって素直に嬉しい瞬間だったと思うから。あと、ケレブリンボールの前でアンナタールに変貌するシーンもそうですよね。サウロンとケレブリンボールは、芸術性や仕事において共通項をもっていて。エピソード3で、サウロンに半ば操られ、すべてを支配する力の指輪を作る決心を固めたケレブリンボールはこう言います。『私は長年この時に備えていた。弟子を育て、研究を重ね、技を磨き上げ。今が人生最高の時だ』。すると、その言葉にじっと耳を傾けるサウロンのショットに切り替わる。彼もケレブリンボールと同じように何百年もの間、この画期的な技術を待ち望んでいたんです。そのレベルで、二人はつながっています」
ケレブリンボール役のチャールズ・エドワーズも、二人のキャラクターの間に独特の絆があることを認めた。
「ケレブリンボールは鍛治職人というより、アーティストだといえます。だから多くの芸術家がそうであるように、自分自身の能力や存在意義を常に疑っていて。そうしたどん底の時期に、サウロンがケレブリンボールの前に颯爽と現れ、彼の“名作を生み出したい”という欲望を利用し始めるというわけ。キャラクターの内面的な混乱や曖昧さを表現するのは難しいことだけど、こういう役を演じるのは好きですね」
Text&Edit_Milli Kawaguchi