A24の製作による、Apple TV+の新作シリーズ『サニー』が配信スタート。主演はソフィア・コッポラ監督作『オン・ザ・ロック』も記憶に新しい、ラシダ・ジョーンズ。京都・東京で撮影し、西島秀俊、ジュディ・オング、YOU、國村隼ら日本のキャストも多数参加。人間とロボットのコンビが謎の飛行機事故について調べるうち、思いがけずアンダーグラウンドな世界に足を踏み入れるダークコメディだ。諷刺のきいた物語を通して描かれるのは、現代人の“孤独”。このテーマ設定に親しみを覚えたというラシダは、「今の私は、孤独感をいいものだと捉えています」と話した。彼女が思う、さみしさの効用とは。
A24発!Apple TV+『サニー』主演のラシダ・ジョーンズにインタビュー
「人はみんなちょっぴり孤独。だからこの物語が心に響くんだなって」
──『サニー』はSF要素のあるダークコメディながら、根本にあるテーマは現代人が抱える孤独だと思いました。脚本を読んで共感した部分はありますか?
ええ。孤独を感じるのは人間らしいことだと思うんです。人はいろいろな方法で寂しさを紛らわせようとしますが、究極的には、私たちはみんなちょっぴり孤独なので。だからこそ、この物語が心に響くんだなって。私が演じたスージーは一人ぼっちになりたくて、日本の京都に来たところ、同じような悩みを抱えたマサ(西島秀俊)と出会います。それからは、二人で一緒に孤独でいられた。やがてスージーは彼を飛行機事故で失い、また完全に一人になる。すると今度はロボットがやってきます。当初はいぶかしげだったスージーですが、徐々にロボットが彼女の慰めになっていきます。
──ご自身もそういった虚無感を抱えたことがありますか? 以前のインタビューで、中年期を迎えて急に自分が何者なのかわからなくなったという、ミッドライフクライシスの経験について語っていたのも読みましたが。
たしかにその経験も、孤独と関係しています。これまでの人生で成し遂げたことや、愛に恵まれたことはとてもラッキーだし素晴らしい。ただ人生の半分を終えて振り返ると、それらが何か心の穴を埋めていた気がしてならなくて。その穴、その隙間こそが孤独感です。それは言い換えれば、自分よりも高潔なもの、自分より意味のあるものに近づきたいという欲求なんだと思います。愛する人たちといるだけでその欲求を満たせることもあれば、満たせないこともある。今の私は孤独感をいいものだと捉えています。目の前にあるものだけでは決して幸せを感じることができず、自分より大きな何かを求めなければならないことを思い出させてくれるから。その欠乏感は他の誰も汲み取ってはくれないので、自分自身といい関係を保たなきゃですね。
──世の中ではポジティブでいることが推奨されがちです。でも、人にはネガティブな感情を抱く権利もあるはずだと、最近考えたりしていました。
もちろんそうです。どんな感情もその人の一部ですから。それに寂しさや悲しさが、最も美しい芸術を生み出してきたと思うんです。誰かの個人的な孤独感から文学や音楽、映画が生まれ、人々がそれらに自分とのつながりを見出す。そういう小さなサイクルが常に起きていますよね。
──ラシダさんは以前、過去のキャリアにおいて、「誰かの友人・妻・娘で、思慮深く真っ当な役」を多く演じてきたと話していました。スージーは軽率かつ無愛想、だけど愛すべき主人公という真逆の役です。演じるのは楽しかったですか?
ええ、願いが叶いました。いつもなら「そんなことしちゃだめ」「まともじゃない」「本当にいいの?」って言い聞かせる側に扮しているから。でも今回は壁を跳ね飛ばして、非常識な決断を下す、しかもぶっきらぼうな口調の役で。キャラクターを演じるという安全な環境下で、社会的基準に縛られることなく振る舞えて、まるで冒険しているような気分で楽しかったです。
──ロボットであるサニーとのシーンはどう撮影したんですか?
素晴らしいロボティクスチームが、サニーを操作していました。シーンによっては、サニー役のジョアンナ・ソトムラも現場に来ていて。彼女がヘッドリグを装着し、カメラの捉える顔の動きが、絵文字風のシンプルな表情に変換され、ロボットの顔にリアルタイムで投影されるという方法で撮影をおこないました。ジョアンナは優れた俳優で、ロボットを通して一緒に演じることができた。会話のテンポが重要で、自分一人で演じることは絶対にムリだと考えていたから、現場での掛け合いができて本当によかったです。
──CGだったらそうはいかないですものね。現場で印象に残っていることは?
サニーがスージーに食事を運ぶシーンで、最初のうちは、私の膝の上にそれをぶちまけ続けていた(笑)。うまく動いてはいたんだけど、人間そのものではないから、そういうことはたくさんありましたね。ロボティクスチームは日々撮影しながら、サニーの機能性を把握し、改善しようとしていました。
──ラシダさん自身は、新しいテクノロジーとはどう付き合っていますか?
場合によるかな。新しいテクノロジーが現れるたび、私は少し警戒してしまう。「これなしで生きていけないだろうか?」「自分の生き方に、いい意味でも悪い意味でも影響を与えるんじゃないか?」って。ちょっとでもネガティブな影響がありそうなら、なるべく近づかないようにします。テクノロジーには素晴らしい面もあり、少し前までは不可能だった方法で、人とつながったり命を救ったりなんでもできる。私たちはスマホが登場する以前の生活をすっかり忘れてしまっているし、避けられないものではあるけれど、一方でそれらを全面的に受け入れ熱中することには、多くの意図しない危険が内在しているんじゃないかと。だからスマホの使用を制限し、なるべく自然の中で人と過ごす時間を増やすように努めています。
──そういえば『ブラック・ミラー』シーズン3で、エピソード1「ランク社会」の脚本を書いていましたね?
その脚本を書いている間に、中国でまさに劇中に登場するような社会信用システムが現実化したので、もう驚きました。繰り返しになるけど、テクノロジーにはたしかに価値がある。でも、私たちの脳への影響を知るには、まだ十分なテストが行われていないと思います。
──サニーのような、劇中に登場する“ホームボット”は欲しいですか?
答えは「いいえ」です。アレクサさえ使っていないくらいですから(笑)。
Text& Edit_Milli Kawaguchi