1964年の米バーモント州ベニントン。実在したアメリカの怪奇幻想作家シャーリイとその夫で大学教授のスタンリーのもとで、架空の若き夫妻ローズとフレッドが過ごす1年を綴った小説『Shirley』。シャーリイが執筆した数々の物語と、文芸評論家だった夫スタンリーとの数百通の手紙をもとに浮かび上がらせたこの小説を、現代的かつ斬新な解釈で映画『Shirley シャーリイ』(公開中)にアダプト。エリザベス・モスを主演に迎え、ジョセフィン・デッカーが監督、マーティン・スコセッシが製作総指揮を務める本作。スランプ中で不機嫌なシャーリイと、彼女の小説に魅了された若きローズ(オデッサ・ヤング)の変化する関係を、現実と虚構を交錯させつつ見つめる本作を手がけたジョセフィン・デッカーが、なぜシャーリイという作家の世界に夢中になったのか、その理由を語ってくれた。
“魔女”と呼ばれた作家のストーリーテリングに魅了されて
『Shirley シャーリイ』ジョセフィン・デッカー監督インタビュー
──脚本家サラ・ガビンスがまず小説家シャーリイ・ジャクスンにハマり、一緒に彼女の人生を映画化することになったとのことですが、お二人がシャーリイ・ジャクスンという作家のどこに一番惹かれたのか気になります。
映画のアイディアを提案するピッチ・ミーティングが始まる4年ほど前から、サラとプロデューサーのスー・ネイグルと一緒にリサーチは始めていました。実は、当時私はシャーリイ・ジャクスンの本を読んだばかりでした。『ずっとお城で暮らしてる』は、これまで彼女のことを知らなかったなんてあり得ない!と思いましたし、『丘の屋敷』を読了した後は、頭の中に物語の世界が混在する感じがしたんです。その直後、既に小説を全て読み込み、シャーリイの世界に深くダイブしていたサラから脚本が送られてきたので、さらに作家シャーリイに夢中になりました。私たちは、シャーリイのストーリーテリングの手法にすごく惹かれたんですよね。
──場所と時間、世界が歪むような感覚は、この映画にもありますよね。
そうなんです。一つの世界にいたのに、突然、現実がスライドしていくような感覚がある。リビングルームに立っていると思ったら、実は池の中だったとかね。そこに惹かれたからこそ、私たちはシャーリイ・ジャクスンの物語に流れるエッセンスをどうイメージに変えて映画の中に取り込むか、ということに没頭していました。
Text&Edit_Tomoko Ogawa