濱口竜介監督をはじめ、気鋭の映画人を輩出してきた東京藝術大学の大学院映画専攻。2025年春の修了作品『August in Blue』(3/21に渋谷ユーロスペースにて上映)が、映画関係者のあいだで話題だ。主人公は日本の緑豊かな田舎を一人旅する、27歳のフランス人女性。日本語はわからない。けれど偶然の出会いに導かれ、ローカルの若者二人と一夏だけの、不思議な友情とも恋ともつかない関係性を築いていく。いわゆるバカンス映画を日本で撮るという、意外性のあるミクスチャーのアイデアもさることながら、言葉にならない感情を描く映画的なセンスも光る。Z世代のエハラ・ヘンリー監督は大学時代をアムステルダムで過ごし、2024年にはパリで短編映画を撮影するなど、インターナショナルな来歴の持ち主。また、東京から世界へとアートや音楽を発信するレーベル「tokyovitamin」の創設メンバーという一面も。映画から音楽までディグる一方、「自分の映画に“インテリボーダー”は作りたくない」と話す。やさしい愉快な映画制作を理想にかかげる、ニューフェイスな彼に最速フォーカス。
💭INTERVIEW
現役藝大生によるバカンス映画『August in Blue』が見逃せない!
次世代の映画監督、エハラ・ヘンリーにインタビュー

——『August in Blue』はフランス人のディディ(ニナ・アブタジェディン)が、日本の田舎で一人旅をする夏のひとときを捉えています。東京藝術大学の修了作品として、これほど軽やかなバカンス映画を撮ったことに驚いたのですが、どのように考えていったのでしょう?
2024年2月にパリで『パリ症候群』という短編映画を撮影したんですが、その時も主演してくれたニナが「すごい日本に行きたいんだよね」と言っていて。この純粋なモチベーションをキャラクターの原動力として使えたら、パワフルなものを作れるんじゃないかと思ったのが、まず一つ。それに加えて、ephemeral(一時的、はかない)な何か、シンプルに言うと、短いけれど重要な時間、みたいなものに興味があって。
僕は音楽にも目がなくて、好きな曲にもそういうのがいっぱいあります。たとえばアントニオ・カルロス・ジョビンの『三月の水』という曲は、いつもこんな映画を撮りたいなって思うんです。3月はリオデジャネイロでは雨季で、いろいろなものが土砂として流れてくる。そのさまをただ淡々と歌っているだけ。そんなふうに、現在を描写することに興味がある。“now”な映画を作ろうというのは、今回もすごく意識しました。
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Photo_Wataru Kitao Text&Edit_Milli Kawaguchi