FACETASMとTHE WOOLMARK COMPANYがコラボし、去る11月14日から1週間限定のインスタレーションをDOVER STREET MARKET GINZAで開催した。オープンを飾るパーティに登場したのは、ラッパーの鎮座DOPENESSとZEN-LA-ROCK、トラックメイカー/シンガーのG.RINAによる音楽ユニット「FNCY」。才気あふれるデザイナーとユニットの出会いは何をもたらすのか?FNCYとFACETASMの「未知との遭遇」の模様をお届けしよう。
ふたつの「F」が出会う場所──音楽とファッションをめぐる、FNCYとFACETASMの未知なる会話

音楽を「感じさせない」洋服づくり
いまや日本を代表するブランドのひとつともいえるFACETASMのデザイナー、落合宏理はかつて『GINZA』にもプレイリストを提供した「音楽好き」としても知られている。そんな落合が今回のインスタレーションのオープニングに合わせて招聘したのが、今年7月に始動した気鋭の音楽ユニット「FNCY」だ。
「音楽」と「ファッション」はしばしば結びつけて語られるが、落合から音楽は、FNCYからファッションはどう見えているのだろうか。今回のコラボを記念し、落合とFNCYの3人によるトークを収録…するはずが、トラブルによりFNCYの到着が遅れてしまい、まずはFACETASM=落合と「音楽」の関係を紐解いていくことに。
─FNCYさんが到着されるまで、落合さんのお話を伺えたらと思います。今回はFNCYさんがDOVER STREET MARKET GINZAのポップアップショップの中でライブされるとのことですが、落合さんは日ごろから結構音楽を聴かれているんですか?
落合宏理(以下、落合) 下北沢に「CITY COUNTRY CITY」というサニーデイ・サービスの曽我部(恵一)さんがオーナーを務めているカフェバー兼レコード屋があるんですが、そこの店長・平田くんが高校の同級生で。2011年に東コレを始めたときから彼にショーの音楽をずっとお願いしていて、平田くんから常にいい曲を教えてもらってる感じです。最近はソウルやR&Bをよく聴いていますね。
──以前『GINZA』のためにつくっていただいたプレイリストもジャンルレスなものでしたが、普段からジャンルに拘らずいろいろ聴かれているんですね。
落合 そうですね、いいなと思うものは聴くようにしています。ぼく自身はマニアでもヘビーリスナーでもないですけど、いい音楽の隣にはいたい。今は子供がいるので、以前と比べて家で音楽を聴く時間は少なくなりましたね。最近は子育てを頑張っているので(笑)。子どもといると7時に起きてから流す音楽も変わってくるじゃないですか。
──イクメンですね!音楽を聴くときはなにかに注目しながら聴かれているんですか?
落合 歌詞のフレーズひとつにグッとくることもあるし、感覚的なところが大きいですね。でもいま質問されて、歌詞の内容と生活のちょっとしたシーンが共鳴する瞬間に出会う感覚が薄れていることに気づきました。まずいですね(苦笑)。
──ちなみに、デザインをされる際も音楽は聴かれますか?
落合 音楽を流してはいますけど、FACETASMでは「音楽を感じさせる洋服」をつくりたくないと思っているんです。ぼくより上の世代は音楽から強くインスピレーションを受けた方が多いので、新しいことをするためにはむしろ音楽を感じさせない洋服作りをしなきゃいけない。音楽を感じさせる洋服はすでに出尽くしているので、同じことをやるべきじゃないなと。
同時代的な感性と共鳴するクリエイション
──音楽を感じさせたくないというのは面白いですね。ただ、一方でアーティストの方がFACETASMの洋服を着られていることは多いんじゃないかと思います。
落合 状況が逆転してるんですよ。昔はモッズやパンクのように音楽からカルチャーが生まれてきたけど、いまはアーティストに着てもらうことがカルチャーになっている。それにはいい面も悪い面もあって、移り変わる流行のサイクルにアーティストが合わせていっている。今後音楽と洋服がどう関わっていくのかは楽しみですよね。ぼくらは新しいカルチャーが生まれる途中の段階にいるのかもしれません。
──たしかにラッパーのKohhとFACETASMの組み合わせなどを見ていると、まさにいま新しい何かが生まれているのかなという気もします。
落合 もちろんジャスティン(・ビーバー)やケンドリック(・ラマー)が着てくれているのを見ると誇らしい気持ちにはなるし、時代の流れのなかにFACETASMがある安心感はあります。意識的に「このアーティストに着せたい」とは考えないようにしているので、意識していないのにそういうことが起きるのは嬉しいことかも。
──モデルの方に着られるときとは違う感覚ですか?
落合 もうちょっと吸い込まれるというか、嬉しさの質が違う感じです。表現している方々に自分の服がどう合うか見るのは面白いですよ。ジャンル問わず、アイドルグループの方に着ていただけることも嬉しいです。
──アイドルの方々とも通ずる部分があるってことなんでしょうか。
落合 明らかに違うことの方が多いと思うんですけどね(笑)。でも、自分たちのクリエイションが同時代的な感性をもつ人に引っかかるのは嬉しいことだなと。
──そんな状態でもアーティストが着てくれる瞬間がたくさんあるというのは面白いですね。
落合 そうですね。でも、だからこそ媚びちゃいけないなと思っています。
FNCYとFACETASMの邂逅
──あ、FNCYのみなさんがいらっしゃいました!本日はよろしくお願いします。
ZEN-LA-ROCK(以下、ゼンラ) お疲れ様ですー。
G.RINA よろしくお願いします。
鎮座DOPENESS(以下、鎮座) お疲れ様です。…あ、ビールをいただいていいですか。
落合 じゃあぼくもビールを…飲みながら話せるって最高ですね(笑)
──FNCYのお三方と落合さんは今日が初対面なんですよね。もともとFACETASMになにかイメージはおもちでしたか?
鎮座 俺は全然知らなかった。
落合 全然知らないと思ってオファーしてますからね(笑)。
G.RINA でも、今日見てめちゃくちゃかわいいと思いました。
ゼンラ そもそもDOVER STREET MARKET GINZAに来るのも初めてで。みんな初めてですよ。
鎮座 マジで銀座にすら来ないですから。今日来てみて、有楽町から来ると楽なんだなと思った(笑)。
──落合さんは今回なぜFNCYさんを?
落合 東京で久々にパーティをやることになったので、どうせなら面白いことをしたいからミュージシャンを呼びたいと思ったんです。FACETASMとしても、ミュージシャンの方をお呼びするのは初めてでした。
G.RINA オファーを受けて、これはすごいことだよって。
ゼンラ 俺ら?いいんですか?みたいな(笑)。
──これまでもファッションブランドさんとコラボされることはあったんでしょうか。
G.RINA いや、全然…活動始めたばっかりですから(笑)。それでこんな場に呼ばれて…。
ゼンラ そもそもまだ10回くらいしかライブもしてないんですよ。3人いるとみんなのスケジュールが合うこともなかなかないし(笑)。
アジアから見た日本/日本から見たアジア
──FNCYは台湾や韓国でMVを撮られていて、一方の落合さんは先日香港でファッションショーを行なってましたよね。みんなアジアづいているのかなという印象を受けました。
鎮座 この前MVを撮ったのは台湾でしたね。
G.RINA マニアックな夜市に行ったんだよね。
鎮座 ただ単純にバジェットがあったから、監督が「アジア行こう」と(笑)。
ゼンラ 最初は九份で撮ろうとしてたんですけど、ありきたりな映像なんじゃないかって話になって。結局シフトチェンジしてカラオケのビデオみたいな方向にすることになったんです。
──MV、すごく面白かったです。台湾以外の国も行かれてますか?
ゼンラ ライブでは結構行ってますね。その前のビデオは韓国で撮っていたし。そのときRINAさんは行けなかったんですけど。
鎮座 あれは(FNCYという)グループになる前だったからね。
G.RINA 結局卒業写真で休んだ人みたいな移り方になってたよね(笑)。
──落合さんは香港いかがでしたか?
落合 香港の人はいろいろな情報をすごい速さで輸入していて、すごい知識もあるしこれからが楽しみな感じがしましたね。つくり手としては日本的な感覚からするとまだまだな部分はあるけど、動きが大胆で面白い。前回香港に行った時は、ゲストデザイナーとして呼ばれたんですが、そこで行なわれているコンテストの審査員をマーティン・ローズが務めていて、人選もいいなと。インフルエンサー的な人が大きいお金を使って自分たちでイベントやり始めたりするのも面白いですし。
──香港と比べて、日本の特徴みたいなものもあったりするんでしょうか。
落合 日本はセンスがよくて落とし込み方がうまいなと思いますね。以前KOCHÉのデザイナーと話したときに「宏理は日本にいてラッキーだよ」と言われて。世代的にコム デ ギャルソンが戦った道があるから出ていきやすいし、「東京出身」というだけで注目されるチャンスも増える。一方で、海外の人たちと喋るようになって日本はほかの国より「ルール」がないなとも思いました。いろいろなことをミックスしてもネガティブに見えないのが東京なのかなと。
「自然」からのインスピレーション
──最近はアジアのカルチャーが熱いと言われたりしますが、音楽の面でもアジアの国々と交流は増えていますか?
G.RINA だんだん増えてきた感じはしますね。でも実際の制作的な交流はまだまだの段階かもしれないですね。日本人からすると、アジア諸国のアーティストがどんどん増えていくことで欧米に対する引け目を感じなくなっている気はします。韓国のアーティストは早くから意識的に海外を見ていると思います。
ゼンラ この前jojiがビルボードで1位になってたもんね。
G.RINA 日本人もそれにつられてコンプレックスをなくしていく感じはあるかもね。
──今後MVをつくるときに行きたいところはあったりします?
鎮座 エジプトです。
ゼンラ そこは熱望してますよね(笑)。
鎮座 これがピラミッドか〜ってやりたいね。
落合 ピラミッドいいですね。そのテーマで洋服をつくりたい(笑)。
──ピラミッドですか…落合さんはシーズンのテーマを決めるときなど、外国からインスピレーションを得ることはあるんですか?
落合 最近は子どももいるので、どこかの国というより日常的なところが大きいですね。ある意味ストレスもテーマになりうる。それが強い服になっていくとか、パンクっぽくなる可能性もある(笑)。
──FNCYのみなさんはどこからインスピレーションを得るんでしょうか。
G.RINA わたしは植物が大好きで。たくさん育ててるんですけど、株分けするとどんどん増えていくんですよ。無限増殖していくから株分けってすごいなと。みんなそのすごさに気づかず生きてるんじゃないかと思います(笑)。
落合 うちのショップ、すごくたくさん植物があるんですよ。バナナの木もあったりして(ショップの写真を見せる)。
G.RINA えっこんなに!お店はどこにあるんですか?
落合 原宿です。でも、不穏な音が聞こえることがあって(笑)。こんなに気持ちよさそうな環境なのに…。
鎮座 でも、だから逆に落ち着くのかもしれないですよね。
G.RINA …って結局ファッションと関係ない話になっちゃってますけど、大丈夫ですか?(笑)
落合 大丈夫です(笑)。
──人それぞれいろいろなインスピレーションの源があるということで…(笑)。本日はありがとうございました!
FNCYとFACETASMのコラボトークは、「音楽」と「ファッション」を起点としながらゆるやかに脱臼し続けた。しかしその後のイベントでは一転、FACETASM×THE WOOLMARK COMPANYのアイテムを着こなした3人がDOVER STREET MARKET GINZAのフロアに登場。それぞれがときにはブースを飛び出してパフォーマンスを披露し、来場者を大いに沸かせたのだった。どうやらFNCYとFACETASMはきちんと共鳴していたようだ。