室井 滋
曲名♪別れのサンバ
「別れのサンバ」が用意した
最高なハッピーエンドとは?
誰にだってカラオケに行ったら必ず歌う1曲、すなわち〝オハコ〟があるはず。でもって、その曲が〝オハコ〟となるまでにはいろんな歴史やら物語やらがあるはず……というコンセプトのもとにスタートした「アノコノオハコ」は、残念ながら今回が最終回。フィナーレを飾ってくれたのは、女優の室井滋さんだ。
「私、2年くらい前に三味線を始めたんですよ。だけど、先生も私も忙しくて。先生の借りているお稽古場に行けないから、いつも神楽坂のカラオケで練習しているんです。私は家で練習するのが好きじゃないんですよ(笑)。それでも叱られたくないから、先生が来る2時間前からカラオケに入って練習するようにしているんですけど、1時間くらいしてまぁまぁ弾けるようになってくると飽きてきちゃう。だから、残りの1時間はだいたい歌っているんです(笑)。いつも最初に歌うのは、『別れのサンバ』なんですけど……」
と、〝瓢箪から駒〟的な流れで明かされた室井さんのオハコは、目が不自由なことや、シンガー・ソングライター&ギタリストであることから〝日本のホセ・フェリシアーノ〟とも呼ばれた長谷川きよしさんの大ヒット曲。まさかの最終回にピッタリなタイトルだが、室井さんと「別れのサンバ」の付き合いは、この連載がスタートするずっとずっと前にさかのぼる。
「どうやって出合ったのかはよく覚えてないんですよ。発売された頃は子どもだったから、テレビで見たりはしていたかもしれないけど、あんまり記憶にないです。たぶん大学に入ってから、先輩たちに教えてもらったんじゃないかな? それか自主映画とか芝居をやっていたから、その挿入歌として使われたのか……」
時は流れて10数年前。そんな室井さんと「別れのサンバ」が思わぬ形で急接近したのは、新橋のカラオケでのことだったという。
「この歌を歌って、100点を出したことがあるんですよ(笑)。普通は出ないでしょ? 機械がおかしかったのかもしれないけど、とにかく出たんです! 周りのみんなも自分もすごくびっくりしちゃって。それですっかり気を良くしちゃって、どんどん歌うようになったんです」
「ところが」と室井さんは続ける。それ以後は一度として100点を取ることができなくなってしまったのだ、と。
「100点を取ったときは、ちゃんと伴奏を聴きながら、原曲に忠実に歌っていたと思うんですよ。でも、すごく歌うようになっちゃったから、逆に自分の癖が強くなりすぎちゃったんでしょうね(笑)」
しかし、それじゃドラマは終わらない。室井さんを待ち構えていたのは、とんでもなく華々しいハッピーエンドだった。
「あるとき、『堺でございます』って音楽トーク番組に呼ばれたんですけど、そこで長谷川きよしさんが歌を聞かせてくれるコーナーがあったんですよ。本当に偶然だったんですけどね。それでこんな機会ないから、〝ぜひ自分のオリジナルの曲と、それから『別れのサンバ』を長谷川さんの伴奏にのせて歌わせてください〟って頼んだら、〝いいですよ〟と言っていただいて。それこそカラオケで猛練習して臨みましたよ。でも、やっぱり緊張していたし、その日は着物とウィッグをつけていたからそれが邪魔で(笑)。全然駄目でしたね。だけど、終わった後に長谷川さんが言ってくださったんですよ。〝この歌、なんか室井さんの歌みたいですね〟って(笑)。どう受け取ったらいいんですかね?たぶん怪我をしてても歌えるくらい歌い込んでいたので、そこそこ聞けるようにはなっていたのかもしれません」
「別れのサンバ」/作詞・作曲=長谷川清志/歌=長谷川きよし