2021年、ブランド創設100年を迎えたGUCCI。アニバーサリーイヤーの締めくくりにふさわしい、その世界観へと浸ることのできる展覧会「Gucci Garden Archetypes」が東京・天王洲で開催されている。13の部屋からなるエキシビションを、クリエイティブレーベル「PERIMETRON」のプロデューサー佐々木集、映像作家OSRIN、グラフィック&プロップデザイナー森洸大、デジタルアーティスト神戸雄平の4名が巡った。細部にいたるまでブランドの精神が宿った空間の連続。クリエイターならではの視点とともに各部屋の見どころをお伝えします。
神戸さんの存在が、あらたな見え方をもたらして…。
PERIMETRONと巡る Gucci Garden Archetypes 05

Room 10 Rebellious Romantics 2016年春夏コレクション
――ここはベルリンのクラブの化粧室ですね。ズンズン……と遠くから音楽が漏れ聞こえてきます。ダンスホールから離れた場所で、密やかなドラマが生まれそうです。
OSRIN (以下O) 俺が一番びっくりしたのは、神戸っちが展示の中に入ってマネキンのそばに立った途端、この空間が全く違う絵に見えたこと。このトーンにアジア人の黒髪が入ると、雰囲気がすごく変わるなーって。
神戸(以下K) 黒髪って色として強いよね。
O この空間の類似色でまとめたワントーンな感じが好きなのよ。配色センスいいな〜。
K マネキンの髪の色や瞳の色も、微妙にこまかく計算して決めているんだろうね。
O この化粧室の中で起きている物語の正解を聞いてみたいな。どっちが誘ったのか?
森洸大(以下M) やっぱ、女の子が男を引き止めてたっぽいよね?
O 男の表情がちょっと怒ってたぽくない?
K 「俺、もうオマエ無理だぁ」って言ってるように見えた。
O Room 4の電車の中のシーンと似たテンションだけれど、こっちの方が物語性がより濃厚な感じがするね。
佐々木集(以下S) 電車のシーンが2015年秋冬で、この化粧室が2016年春夏のコレクション。ということはアレッサンドロがGucciのクリエイティブ・ディレクターに就任してすぐの初期作ってこと。いいよね〜。彼自身の心象風景や原体験をそのまま表現に取り入れるのがきっと好きなんだろうな。
Room 11 Come As you Are_RSVP 2020年クルーズゴレクション
――ローマのヴィラ「ラ・フリボンダ」で開かれたパーティが熱狂と興奮のうちに終了。広いキッチンの真っ白な陶磁器が並ぶ棚には、ゲストが忘れていったものが祝祭の余韻とともに残されています。
O この部屋を見て、マジでヨーロッパと日本の文化の違いを如実に感じた! だってこんなに広い収納棚があるキッチンって、日本じゃ想像できなくない?
K でもさ、部屋の中にカメラが設置されていて、入ってくる観賞者を写しているから、仲間に入れてくれるような親近感もあるよ。モニターの中に僕たちがこの部屋にいる状況が映ってたじゃない?
O ま、俺たち盗っ人みたいに映ってたけれどね(笑)
M 確かに、映像の中に人が何人か写っている状況はコロナ以降、去年、今年と見慣れた風景になったね。それをネガティブに捉えるのか、ポジティブに見るのか…。
K この映像を撮ったのはコロナが流行するより前だよね? あの頃は当たり前のようにパーティーができていたんだなぁ。プールにバッシャーンって飛び込んだりさ、すっごい楽しそう。
S バッグとかギターケースとかいろんな忘れ物があったけど、メインの場所にヘッドピースがあったよね。あれ、めっちゃ好き。
K ショーでマスクとかヘッドピースってたくさん使われるじゃない? やっと展示に出てきたなーって思った。
S ヘッドピースのテキスタイルの質感とか色味が派手で結構かましているけれど、服が負けないと思う。こういうの、自分たちの作品でも作ってみたいな〜。
Room 12 Gucci Prêt-à-Porter 2019年秋冬コレクション
――60年代のオーセンティックなファッション雑誌のカバーを思わせるような雰囲気で最新コレクションを見せるという、なかなか高度な演出のビジュアルです。
K ここでようやくグッチの服をちゃんと見た!っていう気がしたな。
O これはファッションの歴史に超詳しい人だけが理解できるハイレベルな遊びだよ。
M これを見て、受け取る情報量が人によって全然違うんだろうな。このビジュアル、街中の壁に貼ってあるポスターみたいにわざと皺が寄ってたじゃない? ああいうの、個人的にすごく好きで自分でもよく使うアプローチなんだよね。だから親近感がもてた。
O 最後の部屋をこれにした理由をアレッサンドロに聞きたいね。
K 自分がもしバンドをやっていたとしたら、ライブのセトリの最後には泣けるエモい曲は絶対やりたくなくて、ミドルテンポの曲をさらっとやって終わりにしたい……っていうのと同じことかな?!
S ん〜、ファッションデザイナーだからじゃないの?
K うっわー、正解でた(笑)
S アレッサンドロはクリエイティブ・ディレクターで空間も、ファッションもデザインするから。
O 最後に本業を見せて終わるってことね。
K 俺のバンドの話、削除したい…(笑)
S いやいや、ゴージャスに終わることもできたけれどそうしない抜き加減とか。今までの部屋では3Dで見せてたのに最後は2Dで終わるとか。見せ方は神戸っちの言ってることが当たってる気がする。
K そう? ありがと!
13の部屋を巡り終えて
佐々木集
アレッサンドロはグッチのクリエイティブ・ディテクターに就任して6年、つまりグッチの歴史の100分の6なんだよね。俺が生きている間にこれだけの膨大なアーカイブスを使った展示をやりたいって思っても、どこからかオファーがないとできない。だからアレッサンドロのような存在を羨ましくも思ったね。PERIMETRONにはまだこれだけの歴史的な蓄積はないから。人の人生よりも長いブランドってすごいな。もしPERIMETRONにこういう展示のオファーが来たら、自分ならどうするかなって、ワクワク想像しながら部屋を巡りました。
OSRIN
俺は映像を撮る時にまずシチュエーションを設定して、そこにこういう服を着たこういう人を登場させる、という順序で作っていく。でもアレッサンドロはまず服があって、それから空間を考える人。俺と順番が逆なわけだ。でも、作り方は全然違うのにアレッサンドロの世界に惹かれるって面白いなと思った。やり方は違っても、最後に空間と人物とのバランスや調和を取れなきゃダメで、最終的には同じことなんだろうなと思った。あと、アレッサンドロはファッションと日常や人間性をミックスさせている人だと思う。ファッションはファッション、日常と切り離して考える“ファッションオタク”みたいな人だったら全然違う表現になっていただろう。デザイナーとクリエイティブ・ディレクターという2つの要素が同じ人間の中に入っている、それがアレッサンドロだし、俺たちにも当てはまると思う。ファッションの振り幅を大きくするのはその人の視点であり、日常だから。自分の視点や過去の原体験をベースにしてものづくりをしている姿勢が、ある意味ポピュラリティーにもつながっているんじゃないかな。そのおかげで見る人が入り込みやすいから。そんなことを考えました。
森洸大
僕自身、ファッションについてもアレッサンドロについてもそれほど詳しい知識を持っていないから、今回の展示を観たらひたすら圧倒され、突き放されるんじゃないかと、最初内心不安だった。けれど、観ていくうちに、それぞれのルームで何かしら共感できるポイントや、僕たちの考え方とかアプローチに似ている仕かけが多くあったので、それがよかったなと思いました。
神戸雄平
めちゃめちゃ楽しかった! 最近、外出することも少ないし、メンバーのみんなともオンラインで話したり、画面上のものばかり見ていた気がするから、シンプルに「体験」って素晴らしいなって思った。実際にその場にいて、音や光や雰囲気を感じて、身体的に体験することで、打ち出している世界観によりいっそう入り込めるよね。ひとつひとつの展示にのめりこめんじゃって、解説もじっくり読んだから、見終わって心地いい疲労感がありました。
Gucci Garden Archetypes展
Gucci Garden Archetypes展
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PERIMETRON
2013年、音楽家常田大希がYouTubeチャンネルを開設、映像を公開し始める。2016年、プロデューサーの佐々木集と映像作家のOSRINが参加し、クリエイティブレーベルとして始動。グラフィック&プロップデザイナーの森洸大、デジタルアーティスト神戸雄平をはじめ、10名のクリエイターを擁する。King Gnuやmillennium paradeなどのアートワークやMV、ライヴ演出を手がけるほか、多方面との協業も行う。