『星に仄めかされて』
多和田葉子
(講談社/¥1,800)
《人生が再会できない人たちと過ごす短い時間の連なりに過ぎないとしたら、地球はいつかバラバラに崩れてしまわないのか》。登場人物の心を浸すこんな思いさえも行く先を照らす光のように思えるのはなぜだろう。母国が消えたHiruko、言語学を研究するクヌート、旅先で出会ったアカッシュとノラとナヌーク、口を閉ざすSusanoo。『地球にちりばめられて』から始まった物語は搭乗員も増やしながら大きく展開する。音に乗り文字に連れられ言葉が動き回る長編。
『消えた心臓/マグヌス伯爵』
M・R・ジェイムズ
(南條竹則訳/光文社古典新訳文庫/¥920)
日常を不意に横切る不穏な影に少しずつ焦点があっていき、気づいた時には読者も黒々しいなにかに触れられている。悲鳴や血飛沫とは違う、なんだかぺったりとした実在感がページから立ち上がって脳に入り込む。残り続ける。夢に接続される。中世の建築を愛し、古文書を研究した英国人学者が、自らの楽しみのために書き綴った小説たち。『好古家の怪談集』と題された短編集に、試作にまつわるエッセイを加えた全9編を収める。