1月のエンタメをレビュー!GINZA編集部がレコメンドする新刊をご紹介。
G’s BOOK REVIEW 作家の人生を彩った料理をもとに編集した短編小説集、カルミネ・アバーテ『海と山のオムレツ』etc.

『ババヤガの夜』
王谷 晶
(河出書房新社/¥1,500)
読書即チカラ。読む端から身の内に力が生成されていくのは、《力の中に身を浸す》ことを娯楽とも趣味ともする女の拳ゆえか、暴力団の家に生まれた女の強い眼差しゆえか。腕っぷしを買われやくざの屋敷に連行された依子は、一人娘・尚子の護衛を担わされる。暴力に覆われた世界で、守り守られながら静かに密やかに近づいていく2人の心と、少しずつ形を変えていくシスターフッドが、この世の地獄を明るく照らす。ハードボイルドって気持ちいい。
『レベティコ —雑草の歌』
ダヴィッド・プリュドム
(原正人訳/サウザンブックス社/¥3,000)
無花果のような楽器を抱えた男が街を行く。刑務所の中で、外で、酒場で、暗闇で、男たちが奏で歌うのは、ギリシャのブルースと呼ばれるレベティコだ。黒い髪と口髭、体臭とハシシの香りとダンディズムをまとい、社会の下層に押しこめられたやくざ者の音楽家たち。彼らの1日を描くバンドデシネ(フランス語圏の漫画)を開けば、1936年のアテネに流れていた空気が、賑やかな哀愁を湛えた音楽が、実在感を持って迫ってくる。
『海と山のオムレツ』
カルミネ・アバーテ
(関口英子訳/新潮社/¥1,900)
腸詰め、オイル漬けマグロ、赤玉ねぎも入った祖母特製のオムレツに婚礼のための郷土料理、クリスマスの食卓にあふれる13+数品のごちそう、粉雪で作る特製シャーベット、自家製ワインとドイツのビール、そして唐辛子、唐辛子、唐辛子! アルバニア系イタリア人コミュニティに生まれ育った作家の人生を彩る《喜びの味》を道しるべに、前菜、第一の皿、第二の皿、デザートへと進むコース仕立てが楽しい短編小説集。
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Recommender: 鳥澤 光
ライター、編集者。長い夜に読みたい、一緒に朝を迎えたい小説と漫画を選びました。