6月のエンタメをレビュー!GINZA編集部がレコメンドする新刊をご紹介。
G’s BOOK REVIEW 益田ミリが描く明日の元気をもらえる漫画集『スナック キズツキ』etc.

『メッセージ トーベ・ヤンソン自選短篇集』
トーベ・ヤンソン
(久山葉子訳/フィルムアート社/¥3,080)
ムーミンを生んだ作家は、児童文学や絵本、漫画だけでなく小説をいくつも遺した。人生の最後に自ら編んだ傑作選には、ボートを漕いで冒険に挑んだり、卒業の日を満喫したり、恋したり家族や友人を思ったり、芸術について考えたりの31編を収録。描かれる情景は未知のものでも、それを受け止める心の動きは読み手にもつるりとフィット。着想や労働、生活、《手つかずの秘密》を守ることについての真っ直ぐな言葉が小さく光る。
『共謀小説家』
蛭田亜紗子
(双葉社/¥1,815)
小説を書きたいと上京し、憧れの作家の家に身を寄せた17歳の主人公。女であるがために弟子ではなく女中として奉公するうち、《小説の供物になってくれ》と身を請われる。小説が生まれる瞬間に立ち合いたい、技と心髄を奪いたいと葛藤する彼女と作家のやりとりを、間近に注視するもう1人の男がいた。尾形紅葉門下の作家夫妻をモデルに、書く女として生きることの困難と書く喜びを描き、時代の移ろうさまも写しとる。明治文壇が今につながるエンタメ長編。
『スナック キズツキ』
益田ミリ
(マガジンハウス/¥1,430)
いつだってどこかで誰かが気を使い、傷ついて、怒ったり涙を浮かべたりしている。袖振り合ったあの人も、隣に座ったあの人も、電話の向こうのあの人も、頼りなくともひとり分の人生を生き延びている。夜道にポワンと出現する《傷ついた者しかたどりつけないスナック》、その名も「キズツキ」で、すこしの間背負ったものを脇に下ろして、ノンアルコールドリンクを飲んでひと呼吸。歌って踊って雨に濡れ、明日の元気ももらえる漫画集。
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Recommender: 鳥澤 光
ライター、編集者。トーベ・ヤンソンの《自画像》でもある短篇集、大島依提亜の装丁も美しい〜!