ベルギー、アントワープ生まれのファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン。本作は、撮影時の2016年までのブランドの軌跡について振り返りながら、これまでプライベートを公開することを拒否してきた彼の私生活をもカメラに収め、その創作の謎に迫るドキュメンタリーだ。GINZAでもおなじみファッションライターの栗山愛以さんがまず注目したのは、ドリスが暮らすアントワープ郊外の邸宅だという。
「ファッション以外の部分は知らなかったので、こんな家に住んでいるんだ!というのが一番の驚きでした。自宅も歴史ある建築なんですけど、日本の屏風があったりして和洋折衷なのに統一感があって、彼のデザインと全部つながっているなと」
ドリスとパトリックが暮らすアントワープ郊外の邸宅「ザ・リンゲンホフ」。自身の庭園から持ち込んだ花を飾る。
本編では、2015年春夏レディス・コレクションの舞台裏から、オペラ座で発表した2016—17年秋冬メンズ・コレクションの本番直後までの1年間に密着。カメラは、アトリエとなるオフィスでの作業風景も見せる。
「愛犬がいつもいて、気心知れた仲間たちがいて、和やかでゆっくりした空気が流れてるんですよね。ファミリーのようで、ピリピリしていない。お花が常に活けてあって、緊張感のあるはずのショーのバックステージまでモデルと談笑していたりして和やかなんです。ドリス自身が、素敵な生活を送っていて、優しくて愛に満ちた人だから、ああいう服が生まれるんだなというのがにじみ出ていますよね」
そして、自身を「病的な完璧主義者」と自嘲するドリスの一番のこだわりとして描かれるのは、生地づくり。世界中の織物メーカーから集めた生地を仮縫いした150を越えるサンプルを叩き台にコレクションの素材を選んでいく。
「生地別に床に並べたり、人型に切り抜いて当ててみたりしている様子や、フィッティングの片隅にもライティングがされていて、簡単にポラで済まさずにモデルを撮影しているところから、すべて完璧に真摯に準備しているのがわかります。インドに刺繡工房を持って現地の雇用を生んでいるというのも素晴らしいですよね。スタッフとやりとりしながらショーのルックを決定する様子も出てきます。採用されなかったレアなスタイリングも登場しますよ」
アトリエでフィッティングをするドリス。
また、ドリスのクリエイションを支える大切なものとして大きくフィーチャーされるのが、公私にわたる長年のパートナーのパトリック・ファンヘルーヴェの存在である。
「パトリックは常にドリスの隣にいて、ショーが終わったら真っ先にハグをするんです。ドリスが迷ったり辛い時は彼に頼るというその関係も優しさにあふれていて、愛に支えられ物作りをしているんだなぁと。2人でおそろいの長靴を履いたりしていて素敵なんです。ラブストーリーの側面もかなりある映画ですよね」
彼女は、率直な物言いで知られるファッション評論家、スージー・メンケスの存在にも着目する。
「スージーはやっぱりすごいなと。彼女がいいと言ったことをきっかけにドリスが人気になったしダメ出しをすれば彼もがっかりする。デザイナーに与える影響力がそのくらい彼女にはあるんですね」
映画はどうしてもファッションを過去のものとして記録してしまう性質をはらむものだが、「映画と合わせて最新コレクションも見てください」と栗山さんは言う。進化し続けるドリス・ヴァン・ノッテンの現在は、ランウェイの上で披露されるのだから。
『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』
監督はドキュメンタリー作家ライナー・ホルツェマー。写真家ヨーガン・テラーのドキュメンタリー『Juergen Teller』(12・未)の撮影中に出会ったドリスを3年がかりで説得し、撮影に至る。1月13日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか公開。



ドリスを愛するアイリス・アプフェル、スージー・メンケスなどのファッションアイコンやジャーナリストも登場。
邸宅の緑豊かな庭園で、庭いじりをするプライベート・タイム。家庭菜園で育てた摘み立て野菜で調理する姿も見られる。
チーフデザイナーのメリル・ロッジらと2016年春夏のレディース・コレクションのフィッティングをするドリス。



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