エリート警察官(戸田恵梨香)と、彼女と過ごすうちに次第に警察官としての自覚を持ち始めたひよっこ(永野芽郁)の最強ペアを描く『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(日本テレビ、毎週水曜)。最終回直前の8話を振り返る。
いよいよ最終回『ハコヅメ』8話「大事なペアっ子の命。私の残りの人生かけるにはそれで十分」
「女とは仕事しにくいと思われる」の真意
8話中盤、川合(永野芽郁)が藤(戸田恵梨香)からさまざまなことを教えられてきたことを回想するシーンのひとつに、こんなくだりがあった。署の廊下を歩く川合に藤が「下着ちょっと透けてる」と声をかけ、「ちょっと暑いけど」と羽織るものを渡す。
「こういうことは男の人から注意しにくいから自分で気をつけないと。女とは仕事しにくいって思う人が増えると自分だけじゃなくて、あんたの後輩世代の女性職員にも迷惑がかかるんだからね」
この場面、初めて観たときにはちょっと過剰にも感じた。そんなことまで女性側が気にしなくてはいけないのか? 「女と仕事しにくい」と思うほうが悪いのではないか? と。けれども今回の話を最後まで観て、自分の反応こそがやや過剰だったかもしれない、と思い直した。
過酷な労働環境、女性が少なく、いまだ男性中心の職業。そんな警察官という仕事において、藤の配慮は「そんなこと」で自分たちが働きづらくなるのを避けるという面ももちろんあるだろう。けれど同時に、一緒に働く男性に対する思いやりのひとつと捉えることもできるかな、と思えたのだ。それは、藤を取り巻く男性警察官がみな、傷ついた同僚である桜(徳永えり)のことを大切に思い、心配し、そのために動くことを厭わない姿を観られたからかもしれない
最強ペアのすれ違いと和解
前回7話で山田(山田裕貴)が「藤先輩は桜をひき逃げした犯人をおびきよせるために、川合をおとりにしているのではないか」と源(三浦翔平)に話すのを聞いてしまった川合。交通課の宮原(駿河太郎)も確信を持った様子で同じことを川合に告げる。川合は藤とうまく接することができなくなる。
藤が今まで優しくしてくれたのは、おとりの自分がいなくなって困るからではないかと吐露する川合に伊賀崎は言う。
「本当にそんなこと思った? 今まで藤君と一緒にいてそんなふうに思える? 私にはそうは見えない。二人はもうお互い欠かすことのできない本当のペアに見える」
さらに源も思い悩む川合に対して、藤が、
「川合が警察官として成長していくたびに私はドキドキして、バカみたいに嬉しくなって、いくらでも頑張れるなっていうくらい力が湧いてくるの変かな」
と話していたことを伝える。
藤は川合に面と向かって最初は桜に似た川合を利用したこと、けれど一緒に過ごすうちに川合のことが大切になったことをまっすぐに告げ、謝る。それを受けた川合は「私が藤さんに謝ってもらうなんておこがましいです」「藤さんが後悔してるなら、その何倍も、ペアを組んでよかったと思ってもらえるような警察官になってみせます」と言う。川合のこの強さは、間違いなく藤と過ごして培われたものだ。
拳銃を撃つことができない警察官
今まで観たことのない警察のリアルがコミカルに描かれるのが『ハコヅメ』の大きな魅力だ。8話では「張り込み先にたまたま非番の警察がデートで来てしまって気まずい」「拳銃ホルダーのつけかたがわからなくてネットで検索する」といった展開があった。藤と川合の関係性というシリアスな面と、警察という仕事のリアル。この2軸がぶつかりあったのがクライマックスで藤が拳銃を構えるシーン。
自動車盗難事件の犯人が拳銃を向けてきた刹那、源らが伏せる中すかさず銃口を向ける藤。山田は「下手すりゃ世間から非難されます。発砲した警察官は人生変わっちゃうんですから」と必死で止める。それに対して、
「不安と危険にさらされる住民と、大事なペアっ子の命。私の残りの人生かけるにはそれで十分」
と言い放つ藤。警察官がバンバン拳銃を撃つのはドラマの中だけのファンタジー、実際には銃口を向けることすらめったにないという現実に即した描写。一発の発砲をするかしないかのシーンをこうしてリアルに描くからこそ、その非日常の発砲を、ペアである川合を守るためならしかねない藤の思いの重みが伝わってくるのだ。
張り込みのシーンで「我々今カップル」「見えます?」「夫婦でもいいけど」「もっと見えない」とテンポのいい掛け合いを見せたムロと戸田。2018年、『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS)では夫婦を演じていた二人のシーンにはちょっとニヤリとさせられた。
藤・川合ペアも和解し、町山署は総出で桜をひき逃げした犯人逮捕に向けて動き出す。警察官のリアルを描いた『ハコヅメ』、いよいよ最終回。
脚本: 根本ノンジ
演出: 南雲聖一、丸谷俊平、伊藤彰記
出演: 戸田恵梨香、永野芽郁、三浦翔平、山田裕貴、西野七瀬 他主題歌: milet「Ordinary days」
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Illustrator たけだあや
イラストレーター、ときどき粘土作家。趣味の多い京都府出身。
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