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宇川直宏が語る最新映像トピックス:5G構想と「バーチャル渋谷」で、もうひとつの都市づくり

5G構想と「バーチャル渋谷」は、
コロナ禍の都市復権の希望だ!
5Gの準備は昨年から進められていて、各通信会社が環境を整えていました。渋谷区でもKDDIのau 5G、渋谷未来デザイン、渋谷区観光協会が中心となった「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」が発足し、渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」を5月にリリースしたんです。
VR空間のなかに実空間そっくりのスクランブル交差点が出来上がっていて、ユーザーは自由にアバターを操作してライヴを楽しんだりアート鑑賞ができる。よく見ると「TSUTAYA」は「TATSUTA」に、 「吉野家」は「告野屋」になっていてオマージュが素晴らしい(笑)。「DOMMUNE」でも今後、「バーチャル渋谷」での配信をする予定です。
このプロジェクトを進める最中、僕たちの前に立ちはだかったのが新型コロナウイルスでした。渋谷のスクランブル交差点は東京の賑わいを象徴する場所だったのに、毎朝のように誰もいない風景がワイドショーで中継され、一転してソーシャルディスタンシングのシンボルになってしまった。
ステイホームが解けた今も、僕たちは人との距離を保った生活を送らざるを得ない。そんなパンデミック以降のコミュニケーションを、ARやVRを使いながら探る領域に突入していると思うんです。そういう意味でも、シンボリックな渋谷という都市に紐づく「バーチャル渋谷」は有効だなと。
街の特性をバーチャルに置き換えるのに、渋谷ほど適した街はないんです。なぜなら、行ったことがある人も、ない人も、必ず〝渋谷〟という街に何らかのイメージを持っているから。だから「バーチャル渋谷」を訪れて、僕みたいに「シスコテクノ店に行きたいなあ」と90年代のノスタルジアを抱く人もいれば、「初めてスクランブル交差点を歩いた!」という人もいる。街の再現度が高いから、個の記憶中枢と接続され、〝渋谷を歩いた〟という実感を伴うはずなんです。
ぜひ、コロナ禍における都市再生の有効なサンプルとして参考にしてほしいですね。人と人との距離を保つために、ミラーワールドと現実世界を行き来する、そんな時代が訪れているんだと思います。
細部まで作り込まれた「バーチャル渋谷」。スマホやPCにアプリケーション「cluster」をインストールして、バーチャル空間を楽しもう。
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宇川直宏
現代美術家、映像作家、グラフィックデザイナー、VJ、文筆家。2010年に日本初のソーシャルライヴストリーミングスタジオ「DOMMUNE」を開局。
Illustration: Masaki Takahashi Text: Neo Iida