1月9日、『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ 月9)がスタート。田村由美の同名人気マンガ原作がどうドラマ化されるの? 菅田将暉はどう演じるの? 前評判に見事に応えた第1回を、ドラマを愛するライター・釣木文恵が振り返ります。
驚くほど原作に忠実だ!『ミステリと言う勿れ』1話。菅田将暉が演じる久能整に納得した
”ただの学生”が主人公の物語
「ぼくはただの学生で、探偵でもその助手でもないんですよ。刑事でも検事でもないし検視官でも科捜研でもないし弁護士でも作家でも大学教授でも陰陽師でも塀の中の有名な殺人鬼でもないんです」
警察から頼られた整(菅田将暉)が発するこのセリフによって気づかされるのは、『ミステリと言う勿れ』というドラマの特殊性だ。ここにつらつらと並べられている職業の人々は、いずれもこれまでさまざまなドラマで事件を鮮やかに解決してきた存在。でも整は違う。彼の言う通り、”ただの学生”でしかない。そしてその彼が、事件に遭遇しては謎を解き明かし、同時に周りの人々をほぐしていく。
髪はぼわぼわの天然パーマ。カレーが好きで、よく自分で作る。友達も彼女もいないけれどそのことをとりわけ悲観してはいない大学生、久能整(くのう・ととのう)。『ミステリと言う勿れ』は、彼が鋭い観察眼と深い思考でただひたすらに考え、しゃべることで事件の「事実」が明らかになっていくドラマだ。
冷静で鋭さを備えた菅田整
累計発行部数1300万部にも及ぶ大人気マンガ、満を持しての映像化。私自身、「ドラマ化されるとしたらどうなるか」を原作ファン同士で話し合ったこともある。いったいどうなるのか、いささかの緊張感を持ってドラマを観てみたら、驚くほど原作に忠実だった。多少省略されている部分はあるものの、「一言一句同じ」と言って差し支えないかたちで物語が展開されていく。
原作との違いといったら、整の家が思ったより広かったこと。菅田の演じる整が鋭さを備えていたこと。尾上松也演じる池本のコミカル度合い(舌ペロのときの顔!)。そして、伊藤沙莉演じる風呂光の存在感だ。
原作の整は田村由美作品のタッチもあって、外見はすらりとしているけれども、その実やわらかでぽやぽやとした雰囲気の青年という印象だった。いっぽう、菅田の整は彼の持ち味である目の鋭さが相手の心を射抜くよう。口調も落ち着いてはいるが、ややきつい。そんな印象を抱いて改めて原作を読み、ドラマを見返してみて、ドラマ版の整の態度に納得できた。
ただの学生である整が、ある日突然身に覚えのない殺人事件の参考人として毎日取り調べを受けることになる。被害者はほとんど交流のなかった高校・大学の同級生。本人にとっては全く不可解な証言や証拠が少しずつ見つかり、どんどん追い込まれていく。それに対して不満に思わないはずがない。整の発する鋭さは、自身の置かれた状況に対する抵抗からくるものだ。
けれども整はそこで取り乱さない。取調室にいて与えられる情報から冷静に思考を巡らせる。結果、整は実際に犯行をし、自身に罪を被せようとしているのが目の前の薮警部(遠藤憲一)であることを突き止める。
1話で去っていく犯人役に遠藤憲一を呼ぶというだけでも、このドラマにかける制作陣の気合いを感じざるを得ない。原作を知らずにドラマを観た人は、大きな衝撃を受けたことだろう。
原作より強い風呂光の存在感
その並外れた観察眼から池本と風呂光の抱えている問題を見抜いてふたりの心を掴み、青砥(筒井道隆)が過去に関わった事件についても言及する整。けれどそこに、ことを自分に有利に働かせようという思惑は見えない。ただただ自分の考えを率直に語る整の姿に、関わる人々が目をひらかれていく。「人の数だけある」真実ではなく、たった一つの事実を求める姿勢、目に見えたものが本当かどうか常に疑い、「わからない」ことを大切にする整の信念が、周りの人を動かすのだ。
整に自身の存在意義を気付かされた風呂光は、用意していた退職願を捨てる。ここは唯一、原作にない部分。1話ラストで新たな事件に遭遇する整にも深く関わってきそうで、風呂光の存在がこの先ドラマでどう動いていくのか、期待が高まる。そして、一瞬誰かわからなかった金髪姿の永山瑛太と整との関わりも2話の楽しみだ。
1話はとりわけアームチェア・ディテクティブの側面が強かった。けれどもタイトルを信じるとするならば、これはミステリというべきではない物語なのだろう。だとしたらなんだろうか。1話の事件では、整という人を通じて、まわりが自分の職場での立場や、家族との関係に気づいていくストーリーに見えた。バスジャックに当事者として遭遇してしまった整は果たして、どんなふうにこの事件に対峙していくのだろう。
脚本: 相沢友子
演出: 松山博昭、品田俊介、相沢秀幸
出演: 菅田将暉、伊藤沙莉、尾上松也、門脇麦、白石麻衣、鈴木浩介、筒井道隆、遠藤憲一 他
原作:『ミステリと言う勿れ』田村由美/小学館(『月刊フラワーズ』連載中)
主題歌: King Gnu『カメレオン』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Illustrator オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。趣味は自炊。
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