1983年、東京生まれ。音楽作品の制作やプロデュース、映画、演劇、ダンスとのコラボレーションまで多様な活動を行う、東京を代表する音楽家・蓮沼執太。そのボーダレスな魅力を音楽ライター・南波一海さんに伺った。
東京の知性とユーモアが交差する音楽。唯一無二の音楽家、蓮沼執太について。

多様な楽器のアコースティックな響き、電子的なサウンド、街に佇む環境音、構築されたメロディとハーモニー、偶発的なノイズ、歌声、ラップ、etc.。蓮沼執太は、2006年にアメリカのレーベル〈ウェスタン・ヴァイナル〉でデビューして以降、音にまつわるさまざまな要素を別け隔てなくフラットに扱い、シンプルにポップスとも現代音楽ともエレクトロニック・ミュージックとも言い切ることのできない、じつに不思議な音楽を奏でてきた。
アウトプットの方法も多岐にわたり、自身のキャリアを重ねていくなかで、ソロ、ミニマムなバンド編成、大所帯のフィルハーモニックオーケストラなど、形態を自在に変えながら、小さなライヴハウスや野外フェスの会場、コンサートホールなどで演奏することもあれば、ギャラリーや美術館でサウンドインスタレーションを披露することもある。ファッションショーや舞台、映画やCMのなかで人知れず彼の作った音を耳にした人もいるかもしれない。
なので、蓮沼の音楽をひとくちに説明するのは容易なことではないのだが、YouTubeで、あるいはSpotifyやAppleMusicで、彼の作品のいくつかに触れてみてほしい。坂本美雨『Waving Flags』、Negicco「自由に」、赤い公園 「お留守番」といったプロデュースワークでもいいだろう。どれも決して難解なものではないし、鳴っている音楽はむしろ柔らかくて人懐っこい。それでいて、ひとつとして同じものはないはずだ。
蓮沼執太&ユザーン「ベーグル」
蓮沼執太「RAW TOWN」
蓮沼執太フィル / Juxtaposition with Tokyo
【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
そんな蓮沼が近年、力を注いできたのが彼の率いるフィルハーモニックオーケストラ〈蓮沼執太フィル〉だろう。もともとは4人というタイトな人数制限のなかで演奏していた〈蓮沼執太チーム〉が、その制限を取り払い、出自の異なるユニークなミュージシャンと出会っていくなかで組まれた15名からなるアンサンブルで、そこにはドラムス、ベース、ギター、ピアノ、ヴォーカルといった基本的なバンド編成に、管楽器や弦楽器、スティールパンやマリンバなどが違和感なく同居していた。
2018年夏にリリースされた『アントロポセン』。蓮沼執太フィルとしては4年ぶり2枚目にあたる本作は、フルートのメンバーを1名加え、総勢16名に及ぶ演奏が収録されている。前作『時が奏でる』の頃に比べてより個が立ち、よりお互いが密接になったアンサンブルからは、極めて健やかで自然体の、しかし、誰もが体験したことがないであろう、蓮沼執太フィルの音楽としか言いようのない唯一無二の音楽が鳴り響いている。『アントロポセン』は、数ある蓮沼作品のなかでも最重要作と位置づけられる仕上がりになった。
また、同作のリリースを記念したコンサートでは、蓮沼執太フィルのメンバーにさらに10人のミュージシャンを加えた総勢26名からなる〈フルフィル〉での公演を敢行。圧巻のパフォーマンスの一部は以下で確認することができる。
蓮沼執太フルフィル公演
『フルフォニー』ダイジェスト
先に述べた通り、蓮沼の活動は多岐にわたり、形態は次々と変わっていく。2019年の初頭にはフィルでの公演が控えているほか、NADiff a/p/a/r/tの10周年企画〈NADiff × 10 ARTISTS〉に参加。「NAD」と「iff」の2曲を収録したカセット作品をリリースするほか、期間限定で店内BGMも手がけることになっている。どれも一期一会の機会となる可能性が高いので、気になるかたはチェックしてみてほしい。
蓮沼執太フィル・ニューイヤーコンサート2019
ティザー映像
Text: Kazumi Namba