明確なリーダーはいない、30代中心のフラットな職人チーム
塩谷 しかし、リオ五輪では私(1988年生)と同年代の方々や、もっと若いエンジニアさんも多くリオの現場で活躍していたみたいで……日本のエンジニアってスゴい!と感動しました。しかも今回、真鍋さんをはじめ、みなさん30代のクリエイターの方々が中心になって作り上げたんですよね。
真鍋 あ、ぼくは40歳になりましたが……椎名林檎さん(1978年生)やMIKIKOさん(1977年生)、菅野さん(1977年生)、中田ヤスタカさん(1980年生)たち、ほとんどが30代半ばのクリエイターですね。
塩谷 失礼しました(汗)。真鍋さんはテクニカルディレクターとのことでしたが、全体のチームリーダーは誰だったのでしょう?
真鍋 チームリーダー、というものはなく、全員が自分の領域に徹して、お互いが全力を出せるように知恵を出し合う……という感じですね。
GINZA編集部S 素晴らしい!従来の縦割りのピラミッドではなくてフラットな組織だったんですね。
真鍋 ハイ。強いトップがいてそれに引っ張られるという感じではなかったです。びっくりするくらい皆オープンでした。特に、デジタルクリエイティブの世界だと技術の進化が速く専門性が必要とされることが多いので、そうせざるを得ない気もします。
塩谷 たしかに、数ヶ月前の技術はもう古くなっちゃうような世界ですもんね。演出プランを決めていても、制作途中で技術が古くなっちゃう。
真鍋 そうですね。あと「最先端の技術で…」と言われがちなのですが、僕らが携わる演出は、必ずしも最先端である必要は無いんですよ。「枯れた技術の水平思考」という言葉があるのですが、古い技術でも違う目的に再利用出来る、という意味ですね。
古い技術でも、これまでと違った使い方をしたり、新しい技術と組み合わせて使えることの方が重要です。
塩谷 なるほど。新しい技術にとらわれすぎない考え方も重要なんですね。
真鍋 しかし、今回のチームは全員が専門領域を持つ職人で、実制作に移ってからは非常にスムーズでした。お互いのパートは信じ合う感じでしょうか。あと、IOCやリオ大会の閉会式を制作するエンジニアの方々にもたくさんアドバイスをいただきましたね。
2020年、どんなテクノロジーが登場する?
塩谷 でも4年先になると、また技術が進歩してるわけですよね。2020年には、どんなテクノロジーが登場していると思いますか?
真鍋 年先だと、大きな舞台で使えるテクノロジーはもうほぼ決まっていると思いますが……たとえば大きなステージでスマホを使った演出は出来るようになると思います。
塩谷 それは事前に観客がアプリをダウンロードして、客席みんなが曲にあわせてスマホを光らせる、というような?
真鍋 そうですね。1、2年後にはライブ演出でスマホをガンガン使えるようになりますよ。あと、動画のリアルタイム3Dスキャンや複数台のカメラの映像をシームレスにつなぐ技術。これも精度が上がると思います。
塩谷 つまり、競技中のアスリートを撮影して、その一瞬の姿を立体模型として3Dプリンターでプリントアウト出来ちゃったりもするんですかね。
真鍋 はい。それと、自分の好きな視点から生放送を見るというのも、一つのトレンドになると思います。
塩谷 スゴい!
真鍋 あとは、フラッグハンドオーバーセレモニーでやっていた、現実空間にはないものを、現実空間上に合成するARの技術。この間やった際は条件が厳しかったため、技術的なハードルは相当高かったですが、これも2020年にはもっと開けた技術になって、一般普及していくと思います。
塩谷 ARってポケモンGO でぐっと普及したイメージですが、もっと気軽に作れるようになったら、結婚式の招待状とかにも仕込む人増えそうですね!