〈マリメッコ〉がブランド創立70周年を記念して、カプセルコレクション「マリメッコ コークリエイテッド」を始動。若きクリエイターとタッグを組み、限定コレクションを発表する。2021年8月27日(金)より「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」でリリースする第三弾では日本人デザイナー、富永航さんのアイテムが登場。自身のファッションブランド〈WATARU TOMINAGA〉以外にも、さらに活躍の場を広げる富永さんにインタビュー。
〈マリメッコ〉のカプセルコレクションを手がける、富永航さんにインタビュー。「僕にとってデザインは毎回ちょっとずつ冒険してみること」

──美大在学中、交換留学生としてフィンランドでテキスタイルについて学んだそうですが、北欧の地、フィンランドを選んだその理由とその印象は?
留学先の選択肢に、フランス、イタリア、フィンランド、イギリスがあったと思います。 もともと捺染(なっせん)によるプリントデザインに興味があり、〈マリメッコ〉がフィンランド発祥だったので、ヘルシンキにあるアールト大学へ応募しました。初めての留学だったのですが、治安も良く住みやすかったです。フィンランド人はシャイな人が多く、生活も派手な人はほとんどいない印象でしたね。素朴だけど洗練された道具や家具、テキスタイルデザインなどに囲まれて、寒い冬でも家の中で快適に暮らすための工夫を人々からもデザインからも感じました。インスピレーションの違いはありますが、大胆な色やグラフィカルで絵画的なテキスタイルの表現は、自分のクリエーションに影響していると思います。
──富永さんの作品はインパクトのある色彩やカラフルでプレイフルな表現方法が印象的ですよね。そのインスピレーションのもとになっているのは何ですか?
現代的な絵画の表現や色使いは10代の頃から好んで見ていました。身近な例だと、僕の育った90年代の日本のストリートファッションに見られるカラフルな着こなしも、子供の頃から好きでした。それに加えて日本の古着文化にも大きく影響を受けていると思います。欧米の都市で生活や旅をしてきましたが、日本のようにいろんな国から集められた古着が一度に見られる都市は他にはなかったです。無国籍で、無差別に様々な年代や用途、 性別の洋服やプリントデザインが同時に見られる空間はカオスでもありますが、僕にとってはとても魅力的なインスピレーション。 ヨーロッパで生活していた時も、現代美術のギャラリーとアンティークマーケットにばかり行っていました。古いものと新しいものを混ぜてデザインする感覚もそういった視覚的な経験から自然とやっているように思います。
──富永さんにとって〈マリメッコ〉はどんなブランドですか?
〈マリメッコ〉は一つの目標のようなブランド。プリントをメインにしたブランドの中でもカジュアルですが洗練された印象で、何年も前に制作されたプリントでも古臭さを感じないのはすごいことです。また洋服だけではなく、生活雑貨やインテリアなど生活全体をプリントで表現しているところがとても好き。僕も将来的には服だけではなくインテリアデザインなど生活に関するプロダクトをデザインしていきたいと思っています。
──〈マリメッコ〉70周年記念コラボレーションのテーマは「自然との共生」です。富永さんの作品には自然に関するモチーフがいきいきと描かれていますが、これまでどのように自然と関わってきたのでしょうか?
田舎で育ったこともあり、身近に自然がたくさんあったので意識して自然の中に行くということはあまりなかったです。ただ、花や樹木が視覚的にもたらす感覚はとても好きで、植物や風景を描写するのが子供の頃から得意でした。 今回、僕のオリジナルのプリントは制作していませんが、マイヤ・イソラが日常にある花や景色を描いたウニッコ(ケシの花)とロッキ(カモメ)を使用しています。彼女の目を通して描かれたデザインに、自然の中に溶け込むような色を僕なりに選びました。ウニッコとロッキがパッチワークのように組み合わされたデザインの意外性やコントラストも楽しんで欲しいです。
──今回のカプセルコレクションでは、〈マリメッコ〉の代表的モチーフであるウニッコとロッキを再解釈されていますが、キーワードに掲げた「新たな冒険」にはどのような思いが込められていますか?
終始楽しく参加させていただきましたが、〈マリメッコ〉のシンプルで大胆なイメージを崩さない様に二つの柄を組み合わせてデザインし、色を選択するのが難しかったです。 僕にとってデザインは毎回ちょっとずつ冒険してみること。これまでウニッコは女性用の衣料品や小物に多く使用されてきましたが、モノトーンやアースカラーにし、デザインとシルエットもベーシックにすることで、少しでも老若男女関係なく着ていただきたいなと思ってデザインしました。柄物は性別や年齢によっては抵抗のある方もいるかもしれませんが、ぜひ冒険してみて欲しい。
──今回のコレクションアイテムをどのように着こなして欲しいですか?
既存のスタイリングにあまりとらわれず、自分らしいサイジングとスタイリングを見つけてもらえたら。大きなサイズを選んでオーバーサイズで着てもいいですし、小さいサイズを選んでタイトに着てもらっても。もちろんシンプルに着やすいサイズでも。アクセサリーなどいろんな小物と組み合わせて変化を楽しむのもいいと思います。
──コレクションではテーブルウエアなども手がけていらっしゃいますよね。富永さんにとってホームコレクションはウエアと同一線上にあるものですか?
そうですね。服に限らず、日常の中で使用するものを自分の好みに合わせて選択するのは僕にとって自然で重要なことです。全て同じテイストやスタイルである必要はありませんが、自分で選ぶことで何かしらの共通点や思いがけない自分らしさを発見する機会にもなります。
──最後になりますが、今後、仕事やプライベートで挑戦したいことはありますか?
仕事ではファッションデザインに集中していますが、テキスタイルや絵画、彫刻、インスタレーションなど、今まで学んだことを生かして様々なジャンルの作品を混ぜて発表していけたらと考えています。アートとデザイン、ファッションなど、あまり領域にとらわれずに横断的に活動していきたいです。プライベートではとにかくたくさん旅行をしたいなと思います。今は難しいですが、訪れたことのない国や都市で新しい人や文化にたくさん触れたいです。
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富永 航
熊本県生まれ。現在東京を拠点に活動中。日本、UK、フィンランドで教育を受け、インターナショナルな視点を持つ。2016年にイエール国際フェスティバルでグランプリを受賞し、パリの現代美術館パレ・ド・トーキョーのレジデンスプログラム「パヴィヨン・ヌフリズOBC」に参加、2018年には「アジアを代表する30歳未満の30人」のアート部門に選出され、2020年、自身初のコマーシャルラインを発表。