デザイナー、スタイリスト、DJ…ジャンルレスに活動する、マドモアゼル・ユリア。祖母、母が着付け師という家庭で幼い頃から着物に触れて育ち、着物スタイリストとしての活躍もめざましい。
そんなマドモアゼル・ユリアが、幕末創業の老舗織物メーカー〈川島織物セルコン〉とコラボレート。明治期の図柄に現代の空気を加え、2柄4色の新作帯が誕生した。メイキングストーリーと帯に込めた思いを聞いた。
マドモアゼル・ユリアと川島織物セルコンが新作帯を発表。明治の図柄を現代的にリデザイン

──〈川島織物〉は、着物好きなら誰でも知っている憧れのブランドですが、それだけに過去の図案のアーカイヴは膨大ですよね。今回の二つに絞るまでのメイキングを教えてください。
どちらも明治時代の帯にアレンジを加えて復刻したものですが、それは、私が明治のテキスタイルが大好きだからなんです。
明治維新の後、日本に、西洋の文化がどっと入って来ましたよね。織物も大きな影響を受けて、洋風の色遣いや、アールヌーボーなど、西洋の意匠を取り入れた織物が生まれます。洋館を建てる際、日本でも室内装飾として織物を用いるようになりますが、川島織物さんをはじめ西陣の帯の織元も担当していたようです。
そうやって織られた帯やテキスタイルを見ると、現在のように気軽に西洋に行ける時代ではないから、製作に携わった人すべてが西洋に行ったわけでも、西洋織物を見たわけでもないと思うんです。なので本家の西洋のものとはどこか少し違う。その、日本人なりに落とし込んだ独特のかんじが好きなんです。今回も、明治の帯を復刻したいと思いました。
帯、室内装飾など様々な裂地の見本が保管されている。
──明治期の図案帳が残されているのですか?
川島織物では、これまで製作した帯について、図案や見本の裂(きれ)が保管されています。
明治期に“ジャカード織”という製法で織ったものだけでも、図案帳が30冊分ほどあって、一つ一つ見ていきました。もう、宝の山でしたね。
──「花苑遊鳥文」のもとになった「花唐草図」は、先ほどのお話にあったように、西洋風のどこかかわいらしさを感じる図柄ですね。
はい。梅、笹、橘など日本の伝統的なモチーフを用いていますが、全体のまとめ方に西洋テキスタイルの影響が感じられます。このままでもとても素敵なのですが、やや重厚感がありますよね。新たに鳥と桜を加え、配色を軽やかにすることで、現代のシーンにふさわしい帯になったと思います。
──もう一柄の「彩季花の丸」の元の図柄「菊桐の丸」は、ザ・古典文様の帯ですね。
「花の丸」といって、草花を丸の中に収める伝統的なデザインです。今回は、蘭を桜に変え、配色も、地の色を紫から濃色のブルーに変えるなどのアレンジを加え、現代的に仕上げました。
──今回、“汎用性”ということも意識されたと聞きました。
着物というと、着付けやルールが難しそう、お金がかかりそう、とついつい敷居が高くなってしまいますよね。
今回の二つのデザインは四季の草花を織り込んでいるので、春、秋、冬と3シーズン締められます。
また、「彩季花の丸」では、前に出る部分を竹と桜のリバーシブルにしました。春には桜、他の季節なら竹、と出し方を変えて楽しめるんですよ。
そして、どちらも“名古屋帯”というカジュアルタイプの帯なので、お友だちと遊びに行く時にも締められますし、とは言え、伝統を踏まえた模様なので、目上の方とのお食事会などにも締められます。初めての一本に、ぜひお薦めしたいですね。
──最後に、洋服にも着物にも通じるユリアさんが思う、“着物ならではの魅力”を教えてください。
洋服は、デザイナーによって創造され、形もそれ自体で完結したものですよね。着物は、帯、着物、帯揚げ、帯締めを組み合わせることでスタイルが完成し、その人の体型に沿って着るものです。しかも、多くの模様にいわれや意味があるので、それぞれを組み合わせることで、自分だけのストーリーを紡ぐことも出来る。着る人にゆだねられている部分が大きくて、それが魅力だと思います。ぜひワードローブの中に着物も加えていただきたいですね。
「Yulia To Kawashima(ユリアとカワシマ)」
マドモアゼル・ユリアと川島織物セルコンの出会いから誕生したプロジェクト「Yulia To Kawashima(ユリアとカワシマ)」。記念すべき第一号商品は、なごや帯 2 柄、各 2 色。
左より 花苑遊鳥文(白茶)、花苑遊鳥文(黑)、彩季花の丸(紺)、彩季花の丸(茶)。
価格:仕立て代・送料・税込みで¥230,000(受注生産のため、商品引き渡しは入金確認から3か月後)
販売サイト:https://www.kawashimaselkon.co.jp/event/yuliatokawashima2021/order/
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Mademoiselle Yulia
DJ兼シンガーとして10代から活動を始め、着物のスタイリング、モデル、コラム執筆やアワードの審査員など幅広く活躍中。多くの有名ブランドのグローバルキャンペーンにアイコンとして起用されている。2020年に京都芸術大学を卒業。イギリスのヴィクトリア・アルバート美術館で開催された着物の展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンヴィジュアルのスタイリングを担当した。
WEB: http://yulia.tokyo/yulia/
INSTAGRAM: @MADEMOISELLE_YULIA
Text :Maya Nishihata Photo: Mitsuru Wakabayashi(portrait)