体の調子がわるいと、表情どんより&仕事や勉強の効率が落ちて、心も落ち込んでいってしまう……そうならないために、日々何ができるの?そんなあなたの駆け込み寺が、京都・左京区で鍼灸院を営む安東由仁さん、通称ゆにさん。京都のよもやま話とともに、東洋医学的見地から、かんたんにできる養生術を教えてもらいます。vol.1では、夏の終わりの過ごし方を教わりました。
残暑の今こそラジオ体操。秋雨の湿気にはわかめと豆腐のお味噌汁を。鍼灸師ゆにの京風養生vol.1
はじめまして、ゆにです。
京都で生まれ育って、進学で関東へ出て、そこからは関西、関東と数年おきに行ったり来たりして、京都に戻ってきました。一人で小さな鍼灸院をはじめてからは4年と少し。
その前は体育学部の学生だった時代も含めて20年くらい、アメリカンフットボールと高校サッカーでアスレティックトレーナーをやっていました。その間は毎日ジャージ着て、朝練に出て、長い合宿に出て……、といわゆる体育会系の生活でしたが、今は京都のはしっこで、すっかりのんびりした暮らしを送っています。去年からは、40歳で産んだ男の子を育てています。
そんな日々から思うこと、ちょっと体と心の元気に役立つようなことを、この連載ではお伝えしていこうと思います。
鍼灸、東洋医学のベースになっている中国の古典医学書のひとつに『素問』があります。東洋医学の基本理論が書かれているものです。私たち鍼灸師が学ぶ基本です。『素問』には、治療の方法より先に、はじめの章には「日々の暮らし方」が具体的に書かれています。
「養生」して、日々の生活のしかたで心身をととのえることが、特別な施術を受けることよりも優先して考えられるべきだ、というのが、東洋医学の古典からの教えなのです。
と、こういうふうに言ってしまうと、「なんかえらい壮大な話になってきたな…」という感じになってしまうのですが、結局「養生」って何やるの?といえば、毎日の生活の中で「寝る(休む)こと」「食べること」「動くこと」を、季節に合ったやり方でこつこつとやる、という、とても具体的で地味にも思えることなんです。
そこに少し、古典から学べる東洋医学の考え方のこつがあると、より毎日を元気に過ごせる、というわけです。
夏の終わりの養生①
1駅分の散歩やラジオ体操3分間
体を動かし、秋冬の元気を充電
今の季節は、というと、朝晩は急に涼しくなったものの、昼間の様子は夏の終わり、残暑の季節という感じでしょうか。それに秋雨や台風があって、湿気が多いですね。
『素問』に書かれている「夏の過ごし方」は、「夜は早く寝て、朝は暗いうちから起きる。昼間はしっかり日を浴びて、よく動くことで汗をかき、心身ともに発散させる」というもの。春から夏は「発散させる」というのが自然に沿った生き方なので、とくに夏はアクティブに行動するのがいいとされています。
しかし、ここ数年の日本の夏は、このとおりに「しっかり陽にあたって 、動く!」をやると命にかかわるような暑さ。実際、梅雨明けからこちら、8月は暑さで身動きがとれず、エアコンの効いた室内にこもりっきり、という人も多かったのではないでしょうか。
厳しい残暑はつらいですが、少しは暑さがおさまった今、真夏にできなかった夏らしい過ごし方を取り戻すチャンス。昼間はまだ夏が続いているととらえて、出かけたり、動いたり、をこのタイミングでしっかりやるのが、秋冬にも元気でいられるこつです。
運動する、動く、というととたんにアレルギーみたいに「イヤだ〜、めんどくさい!」と感じたり、逆に「じゃあまずウエアを買って、ジムへ行って!」と張り切ったりしてしまう人もありますが、もっとかんたんなことでいいんです。
それこそ、普段ならバスや電車に乗っている一駅を歩いてみたり、お休みの日にお買い物で歩き回ったり。あとは家で3分、ラジオ体操。まずはそんなことでも充分です。
欲を言えば「日常生活にはあまりない動き、ちょっときついぐらい」があるともっといいので、歩くのが楽勝になってきたら軽く走ってみたり、それこそジムや運動系の習い事をしてみたり、と段階を踏めるといいですね。
何より、自分が「楽しい!」と思ってやれることが大切です。その気持ちの動きも、「発散する」という夏にすごく合っているから。東洋医学では、体と気持ちのようすはつながっていると考えています。
もう夏は終わりに近づいているので、ちょっと急いで、滑り込みセーフで昼間はアクティブに過ごしてみてください。
夏の終わりの養生②
夏の名残の湿気に負けない食養生
豆、海藻、ウリ類を温めて摂る
それから、夏の名残に混ざってやって来ている、雨や台風の湿気。これは体にも気持ちにも要注意。むくみやすくなって体が重く感じたり、おなかの不調が出やすくなったり、湿気はいろいろな不調の原因になります。
甘いものや脂っこいもの、生物(なまもの)を摂りすぎると、体の中に湿気が増えます。この時期はこういったものは摂りすぎないようにしましょう。
反対に、体の中から余分な湿気を出してくれる食べ物は、豆類、海藻類、ウリ類など。こちらは積極的に取り入れるといいですね。
ただ、海藻類とウリ類は体を冷やすはたらきもあります。真夏であれば生で食べてもいいのですが、朝夕は冷えるようになってきているこの頃であれば、火を通して温かくして食べたいですね。例えば、お味噌汁の具にわかめと豆腐、というのも、スタンダードですが湿気の多い時期には実はぴったり。ドライパックの大豆を蒸し野菜に添えて食べる、というのも手軽でいいですね。
薬膳、というと特別な材料を使った料理のようなイメージですが、こんなふうにいつもの食材を少し工夫して摂るだけでも、元気をつくることができますよ。
ところで最近の私はといえば、そろそろ「大文字山」に登りたいな、と思っています。お盆に火で大きく「大」の文字が書かれる「送り火」(※)が行われる山です。本当は「如意ヶ嶽(にょいがたけ)」というそうですが、だいたいみんな大文字山って呼んでいます。
銀閣寺の入り口のそばから登りはじめて、往復1〜2時間くらいの気軽な山。「大」の字の中央にある火床(ひどこ)では、幼稚園児たちの遠足に出会うこともしばしばあります。そんな風に誰でも登れるのに、見晴らしがすかーっとして、いい気分になれます。梅雨以降、雨と暑さで足が遠のいてしまったので、秋雨の間を縫ってちょっと行ってきたいところです。
夏は暑いし冬は寒い、気候は厳しい京都ですが、気張らしにもいい運動にもなるこんな山が身近にあるのはほんとに贅沢だなあと思います。みなさんもこちらに来られるときには、観光ついでにいかがでしょう。
※送り火:「京都五山送り火」は、お盆の精霊を送る伝統行事。東山の大文字山に大の字が浮かび上がり、続いて、松ケ崎に妙・法、西賀茂に船形、大北山に左大文字、そして、嵯峨に鳥居形が点る。文中に書かれている大文字山の送り火は、いわゆる「大文字焼き」のこと。でもそれは、ゆにさんいわく「京都の人が『よその人はそう言わはるなあ』という言い方なんです」。これからは「送り火」とそう呼びたい!by担当編集。
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安東由仁
鍼灸師。京都生まれ。20年間アスレティックトレーナーとして勤めたのち、京都に戻り、左京区・鹿ヶ谷にある町家で「ゆに鍼灸院」(完全予約制)をオープン。治療だけでなく、暮らしの中でできる養生術も伝えるなど、“自分をバージョンアップ”するためのお手伝いをしている。
@humanitekyoto
humanitekyoto.com
Text: Yuni Andoh Illustration: Ippan Nakamura Edit: Milli Kawaguchi