ふとしたときに引っかかる小さな懸念から、長年抱え込んでいたお悩みまで。きれいにまつわるあなたの問いかけに、ビューティライターのAYANAがお返事します。
きれいのお悩み投函箱 vol.6
あなたとAYANAの一問一答 「自分らしいメイク」の考え方
📩 お手紙 📩
趣味も好きなものも、人の影響を受けてばかりで、自分の軸がないように感じてしまいます。軸を持っている人に憧れますが、どうすればそうなれますか?
💌 お返事 💌
「軸」って「その人らしさ」と言い換えることができるものかな、と思います。誰の影響も受けずに自分の好きを貫いている方もいれば、その時々で誰かの影響を受けながら好みを変えていく人もいる。どちらにも「その人らしさ」があります。だから、前者に軸があって後者にはない、という話ではないような気がするんですね。後者は人の意見に柔軟に耳を傾け、魅力的なものを察知する能力に長けているということだし、そこを個性として大切にしてあげてもいいんじゃないでしょうか。影響を受けやすいことをネガティブに捉える必要はないと思います。
とはいえ、前者のように確固たる私らしさを構築したい!ということであれば。ぜひ、自分がどんなものに惹かれるのかについて考察してみることをおすすめします。そこにあなたらしい感性が必ず息づいているからです。
たとえば、〈シャネル〉の「トランテアン ル ルージュ」。ガブリエル シャネルのアトリエとアパルトマンがあったカンボン通り31(トランテアン)番地にまつわる美しいエピソードが、色ごとに用意されているんです。アトリエの扉に描かれたタイポグラフィの色だったり、新コレクションの発表を前にマドモアゼルがお守りのように足首に巻いていたフランネルリボンの色だったり。「これが私に似合うから」と色だけ見るのではなく、物語に思いを馳せながら、丁寧に選んでみる。きっと、私がまといたいのはこれだという気持ちを掴むことができるはずです。
また、色名に着目してみるのもひとつ。いつも哲学を感じる美しいネーミングで私たちを唸らせてくれる〈スリー〉から届いた春の新商品、「グラムトーンカラーカスタード」はどうでしょう。アイ、リップ、チークどこにでも使えるマルチバームで、カラフルな展開に心が躍ります。寄り道やまわり道が、思いがけない感動をくれるよというコレクションテーマで、色名も“UNKNOWN PLEASURE”や“FIND THE NEW”など、ワクワクするものが揃っています。ぜひ色と名前のリンクを意識しながら、ピンとくるものを選んでみてください。
ひとつひとつ、丁寧に選ぶこと。その理由を分析してみること。最初は、どうしてそれを選んだのかなんてはっきりわからないかもしれない。なんとなく雰囲気でとか、そんな気分だったからとか、掴めないまま終わるかもしれません。でもその雰囲気って、気分って、どんなものだろう?と考えてみることで、少しずつ自分の好きなムードや空気感、感情のようなものがわかってくるはずです。
また、選ぶときに誰かの影響を受けていたとしても、全っ然!いいと思います。あの人がいいと言っていたからこれを選ぶ。それだって立派な理由になります。重要なのは、なぜ「あの人」でなければならなかったのか?という点であり、そこには紛れもない「あなたらしさ」のヒントがあります。
一見ぶれない自分の軸を持っている人でも、きっと悩んだり迷ったりしながらスタイルを構築してきていると思うんです。一段ずつブロックを積み上げるように、楽しみながら、いろんな影響を受けながら、自分にしか作れないお城を組み立てていくこと、それがきっと軸を作っていくということだし、誰にだってできることです。本当にお城が完成するのは、きっと人生を終えるとき。だから何より、構築していくその過程を楽しめたならしめたものです。
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AYANA
ビューティライター。コラム、エッセイ、インタビュー、ブランドカタログなど広く執筆。化粧品メーカー企画開発職の経験を活かし、ブランディングや商品開発にも関わる。2021年、エッセイ集『「美しい」のものさし』(双葉社)を上梓。文章講座EMOTIONAL WRITING METHOD(#エモ文)主宰、OSAJI メイクアップコレクションディレクターも務める。
Photo&Text: AYANA