クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。25歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.7 大きな木の気持ち
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.8 反射せずに

vol.8 反射せずに
「久しぶり。」
待ち合わせていた場所で、肩を抱き合いながら、私たちはそう口にした。
自粛期間中、私はひとりの世界を全うしていた。
曲を作ったり、本を読んだり、映画を観たりして過ごしながら、内側は常に、言葉と考えとで溢れていた。
脳が欲しているものと、心が求めているもの。
その違いをきちんと認め、紐解いていくことで、私はさらに健康的になっていった。
そして、内界で作り出した哲学や美学は、人と関わることでこそ、意味のあるものになるんだと感じ始めていた。
人は生きていて、一人じゃない。他者と歩んで行く。だから、その思想がちゃんと、暮らしの中で機能するのか、私はとても知りたくなる。
「誰かと話したい」
コーヒーをおとしたり、フライパンを温めている時なんかに、それは不意に訪れる。
「あの人、今何してるのかな」
呼び出しに応えてくれる友人たちには「思い出したように、突然連絡して来るよね」と、軽口を叩かれるけど、私は、いつも困りながら、眉毛を上げて見せることしかできない。
その日も、ベーグルを齧りながら、彼女に会いたかった。
それは叶わないことだけど、連絡してみようとアイフォーンを手に取ると、インスタのストーリーに彼女からメッセージが届いていた。
タイミングの良さに笑いながら、「元気?」と指先を走らせる。
軽いやり取りが二、三続き、話題は自粛期間中の過ごし方になった。
彼女はピアニストで、一歳になる女の子のお母さんでもある。スペインでクラシックピアノを学んだ異色の経歴を持っていて、何に対してもカラッとしているところが好きだ。
保育園も登園が難しいとニュースで言っていたし、どうしているのか状況を尋ねると。
「こんなに普段一緒に過ごせないから、楽しい」と絵文字付き。
そして、「やりたいことを、あきらめる方が楽なんだな。子供のために辞めましたって、もしかしたら、とてもずるいのかもって思った」と書いてあった。
私は、彼女の言っていることを、もっと知りたくて打った文章を、だけど、全部消した。
そして、「落ち着いたら、会おう。顔見て話したいな」と送った。
そんな訳で、久しぶりの彼女との時間だった。
淹れてもらったコーヒーを飲みながら、頷いたり、頷いてもらったりしているうちに、時計の針はどんどん進んでいった。
そして、「前書いてた、仕事をあきらめる方が楽なんだなって。あれ、知りたい。」と私が言うと、「あ~あれはね」と真っ直ぐな目で話してくれた。
「やっぱり、子供ってとっても可愛いから、もう自分のことはいいかも、って思ってしまう瞬間があったりするんだよ。だけど、自分の全部を、その子に託すって、どうなのかなぁって。頑張れ、って子供のやりたいことをサポートする子育ては、大変な愛と気力が必要になる。中々できることじゃないよね。でも、やっぱり、努力するのも、傷付くのも、結局は私じゃなくて、その子自身だから。」
私の世界が音を立てて、彼女の言葉分広くなるのを感じて、私は言った。
「そうか。その子が自分の意志ではなく、親に褒められる為だけに未来を選んでしまったら。転んでしまった時、ずっと両親や誰かのせいにしてしまったり、酷いといじけたままで人生を終えてしまうかもしれない。その逆に、その子が頑張って、光を浴びたとして。それは、心から嬉しいことだけれど・・・」
私が黙ると、彼女が、
「そう。それは、子供の人生であって、私の人生ではないよね。」
それを聞いて、私は、うわぁ~と脱力してしまった。
やっぱり、自分のことは自分で幸せにするしかないんだぁ、と。
子育てをはじめ、誰かをサポートすることに喜びを感じる場面は、数え切れないほどある。
好きな人や家族、友達の頑張りが認められることは、自分のことのように嬉しいものだ。
だけど、それが自分の人生の全ベースになってしまうとしたら?
私は想像して、ちょっと怖くなった。
もっと色んなことを経験して、知らないものに出会ったり、出産してみたりすると、また考えが変わるのだろうか?いや、本筋はそんなには変わらない気もする。
輝きたいなら、自分が頑張るしかないんだ。誰かの反射で生きるのは、何だか、とても苦しいことのような気がした。
そして、輝く、と言うことは、決して大それたことじゃなく。
自分の為に、生きてみることを忘れない、と言うことなんじゃなかろうか。
それを奪う権利は、誰にもない。子供にも、夫にも、妻にも。
家族がいても、一日の中で十分でも十五分でもいい。一人の時間を持つこと。自分を幸せにしてあげることを忘れないで欲しい。そしてそれを欲しがることを、悪いことだって自分を責めたり、律したり、しないでみんなが生きられたらいいなぁ、と思う。
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家入 レオ
16thシングル『未完成』(フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』主題歌)のginzamagでのインタビュー:
家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
leo-ieiri.com
@leoieiri