クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.101 私の住所。ニューアルバムについてのインタビューはこちら。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.102
麻倉ももと希望の名前
vol.102 麻倉ももと希望の名前
彼女と出会ったのは13歳の春。中学校の入学式。中高一貫の女子校。これから6年間着ることになる紺色のセーラー服は身長が伸びることを想定し採寸されていることもあってか、やけに大きかった。学校指定の赤のスカーフを何とか結び作った私のリボンとは違い、彼女のリボンはふんわり風に揺られていた。真ん中から綺麗に分けられた肩までの2つ結び。ぱっちりした目の上で切り揃えられた黒い前髪が彼女の白い肌をより引き立てていたのを思い出す。
彼女――――麻倉ももちゃんとは中学1年生で出会い、同じクラスになった。大きく張り出されたクラス分けの用紙から自分の名前を見つけ、指定された教室の後ろのドアから緊張した面持ちで一歩を踏み出した、あの春。分かってはいたことだけど着席しているのは皆、女の子ばかりで。その光景をはじめて目の当たりにし「女子校に通うってこういうことなのか」と不思議な面持ちで出席番号順、1列目、前から2番目の自分の席に座った。
どうしてももちゃんと話すようになったのかはっきり覚えていないけど、私たちはほんの一瞬同じ部活に所属していたことがあった。美術や音楽に力を入れている学校で、彼女は小学生の時、学校見学会で音楽部のミュージカルを観劇し、この部活に入りたい!と受験することを決めたらしい。彼女は6年間在籍していたが、私は曲を作ることが楽しくなってしまい本当に少しの間だけだったけど。ミュージカル「サウンドオブミュージック」で、ももちゃんが姉で私がその弟役だった。
講堂や音楽室で練習に励み、部員のみんなで食堂や売店に行ったりした。普段お互い別の子と居ることが多かったけど、2人になると何故かももちゃんには素直な気持ちを話せた。下校するバスの中とか、放課後の寄り道とか。そしてももちゃんが、誰にも言ってないけど将来声優になりたいのだと教えてくれた時心からそれを応援したいと思ったのだ。
あれから16年の時が経って、私たちは今東京にいる。ももちゃんは声優をしながら音楽活動もしていて、私は歌を歌っている。そして3月17日に日比谷野外大音楽堂で一緒にライブをするなんて。そしてそのステージで一緒に歌うであろう彼女とコラボした配信曲「希望の名前」。はじめてこの曲のメロディを聴いた時、何故か彼女の顔が浮かんで一緒に歌いたい、そして歌詞を書きたい、と思った。私とももちゃんが出会ったことで、はじまった物語があって、物語がはじまったから応援してくれている「たった1人のみんなの為」に頑張りたいと前を向く今日がある。同じセーラー服を着ていたあの頃から、私はももちゃんの中に在る光を見ていた。そして私の歌を聴いてくれているあなたや君の中に在る光を見つめながら歌を届けられるライブという場所が大好きだ。
Text:Leo Ieiri Illustration:chii yasui