クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.99 魂の脱皮。ニューアルバムについてのインタビューはこちら。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.100
メッセージカード
vol.100 メッセージカード
仕事始めは2023年12月31日の23時台から生放送されている音楽番組への生出演。私は年を越した2024年1月1日の深夜に歌唱することになっていた。新しい年を車内で迎えるのも少し味気ないよね、とチームのみんなで早めに楽屋入りし荷物を置いたら、TV局近くの神社に初詣に行こう、という事になった。去年はコロナにかかり自宅で寝込んでいたから健康に参拝できることがなお身に染みる。おみくじを引いて巫女さんから渡された二つ折りの用紙を、白い街灯の下で、「せーの」と一斉に開くのも、くすぐったい幸せ。仕事始め、と言いつつ、個人的には年越し生放送までがその年の稼働という認識なので、2023年のあれこれを思い出しながら今年何度も行ったウォーミングアップを本番前、1人無心で行う。集大成にして総決算。楽屋の鏡に映した自分の目が少し赤い。時計の針はいつもだったら夢の中にいる時刻を指していた。「届かない、かもしれない。でも届かないから、届けない、のは違う。私は届ける。歌う。」そんな言葉が心にふと浮かんできて、鏡に映った自分を見つめながら、小さく、でもしっかりと頷いた。
「お疲れ様でした〜」「今年もよろしくお願い致します!」「まずはゆっくり休んでね」とお互いを労い見送られ後にしたTV局。道は空いていて、窓の外はまだ深い闇に包まれている。「お疲れ様でした」2人きりの車内に響く私の声。それに運転席から応えるマネージャーである彼女の声が優しくこだまする。今年一緒に走りきった、という感慨が私の心を満たし、席に座らしてある紙袋を視界の端で捉えた。“れお“と自分の名前で結んだメッセージカードと似合いそうと手に取った彼女宛てのギフトが入っている。
昨夜机で万年筆を走らせながら紡いだ言葉は、とてもシンプルだった。感謝と愛とリスペクト。この世界に足を踏み入れたのが16歳の時で。打ち上げなど、お酒がある場に未成年が遅くまでいられないことも手伝って、お世話になった人に手紙を書く様になり、「来年もよろしくお願い致します」「これからもよろしくお願い致します」と記して来た。それは文字通り、支えてくれる人がいてこそ歌えている、ということで。その気持ちは年々深まっていくのだけど、何処かで、こんな力不足の私の為に、どうぞお力添えください、の、気持ちが先にあったと思う。飛躍したい。前に進みたい。そんな若さ故のハングリーな熱。だけど昨晩彼女に「これからもよろしくお願い致します!」と綴りながら、どうぞ、ご自分の人生の為に益々、さらに、魅力的になられてください、と心の底から想い万年筆で綴った。人生の主人公は、その人自身であり、私の人生に関わっていただくことで、その方が拓いていくのなら、また新たな出会いを呼び寄せるのなら、こんなに嬉しいことはないのだから。そしてもちろん私の人生の主役は私なので、私は私を2024年輝かせていけるように進みたいと思った。
Text:Leo Ieiri Illustration:chii yasui