林遣都と仲野太賀がW主演を務めるドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ)。すべてを受け入れる警察署職員・悠日(仲野太賀)と偏見に満ちた休職中の刑事・鈴之介(林遣都)。さらに謎多き生活安全課の星砂(松岡茉優)と面倒くさい会計課の男・琉夏(柄本佑)がこっそり事件を解決する2話を、ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが振り返ります。(レビューはネタバレを含みます)→1話のレビュー
『初恋の悪魔』2話。仲野太賀と松岡茉優の名シーン「ラーメンぐらいのびたっていいんだよ、話したいことがあるときは」

「価値観をアップデートする」の空疎
「価値観をアップデートする」という言葉を、最近よく耳にする。その必要性を感じる場面にも何度かぶち当たったことがある。けれど、『初恋の悪魔』2話で発せられた「価値観をアップデートしなきゃ」のセリフによって、このフレーズは一気に空疎化した。
馬淵悠日(仲野太賀)には結婚を控えた恋人(山谷花純)がいる。警察署の総務課職員という地味な仕事の悠日。いっぽう華やかな雰囲気の彼女は、彼が主夫になっても生活をしていけるだけの経済力をもっているらしい。結婚したら仕事をやめてほしいと願っている。
「どうせ嫌々やってる仕事でしょう?」
ファイルよりも大きなサイズの資料を「40年やってる」という理由だけで、1枚ずつ折ってファイリングする。そんな非効率的な仕事がそのままになっている職場。たしかにやりがいはないのかもしれない。けれど、日々従事している仕事を他人から軽んじられていいわけがない。そして、これまで同じように言われ、仕事をやめて結婚した女性が山ほどいるのだろうな、とも思ったりする。
やがて彼女が他の男性と親しくしているところを目撃してしまう悠日。しかし彼女は悪びれるようすもなく、結婚しても外に恋人をつくってもいいという考え方「オープンマリッジ」を説く。そこで放たれる「古い価値観は捨てて、アップデートすべきだと思わない?」。
悠日はつい、「思う、そうだね」と笑ってしまう。
彼女の言う「これからの結婚は、お互いを独占しない形になっていくべきだと思うの」という考え方は一理ある。けれど悠日の存在を、思いを毀損されたと思ってしまうのはなぜだろう。悠日の気持ちがそこにないからだ。そして悠日がほんとうは嫌だと思っても、つい笑って受け入れてしまうからだ。
「悪いことは言わない、やめなさい」とアドバイスする小鳥琉夏(柄本佑)に対して「古いですね、結婚の価値観をアップデートしてください」と彼女に言われたままに伝えた悠日。それを「なに?ねえこの人なんか気持ち悪いこと(言ってる)」と切り捨てる琉夏に思わずスッとしてしまった。
2話ではもうひとつ、彼が思いを外に出さず、受け入れている場面がある。殉職した兄(毎熊克哉)の法事で集った、悠日一家と雪松署長(伊藤英明)。両親は悠日を前にしながら「息子が生きていたら私たちも生きがいがあったんですがね」と言い放ち、「兄と僕とでは心臓と盲腸くらい違いますから」と言う悠日に「うまいことをいう」と笑う。
「親だからって子供をばかにしていいわけじゃない」という雪松に「あれはうちの親のエンタメなんです。僕を笑うことで両親は救われてます」と悠日は答えて続ける。「誰にも勝たなくていいんです。できるだけ皆さんに勝ってもらいながら生きたい」。1話に続いて語られる、彼の信条だ。
それにしてもこのスタイリッシュな父(篠井英介)と母(中村久美)、二人があまりに似すぎているのはいったいなんだったのだろう。そして雪松はいい人なのかなんなのか、まだつかめない。1話の「上からボウリング」に続いて明かされる、兄と雪松がジャンボラーメンに挑戦した? らしき過去も気になる……。
近所の人が常識的で落ち込む鈴之介
それにしても、悠日の婚約者の存在を知った鹿浜鈴之介(林遣都)の偏見にまみれた反応がおもしろい。
「ブランコに2人で乗って高く漕いだ方がたくさん好きだってことだよ」
というのはどこで得た情報なんだ、かわいすぎやしないか。
恋愛は苦しいものだけど、そのおかげで人類は増えたという会話のまとめが「つまり恋愛は病院のご飯か」
という独特な視点。好意を寄せている摘木星砂(松岡茉優)の椅子だけゴージャスにし、彼女にだけ自分とおそろいのすてきなペアカップを用意しながらも、恋愛感情を否定し「殺意だ」と言い張る。
あいかわらず隣人・森園(安田顕)を見張る鈴之介。「なんて危険なヤツだ」というそのアングルに、より危険に思える鈴之介のハサミコレクションが映っているのもおかしい。
やがて森園と直接遭遇した鈴之介が、「好きな人が優しかった」みたいに「近所の人が常識的な人だった」と落ち込んでいるのには笑ってしまった。
4人は今回も、刑事課の渚(佐久間由衣)を手助けすべく独自に団地で起きた事件の捜査をする。つい鈴之介の星砂に対する思いを「初恋」と思って見てしまうけれど、1話も2話も琉夏の渚に対する気持ちから4人が動いていることを思えば、タイトルの「初恋」は琉夏の気持ちをさしているのかもしれない。
4人が“考察”だけで解決したのは、弟が兄を殺す事件。1話で「加害者を裁かないこと。被害者に同情しないこと」と4人で捜査するときのルールを決めたのに、悠日は「仲が良かった頃に戻る可能性があったんじゃないか」と被害者に同情してしまう。「起こらなかった可能性の話をしても悲しくなるだけだ」と言いながらも、つい悠日の肩に手を置こうとして、「ゴミがついてる」とごまかす鈴之介がいい。
太賀と松岡の名シーン! もういない人との電話
2話のキモは、なんといっても悠日と星砂のシーンだろう。川べりで缶ビールを飲みながら星砂に兄のことを話すうち、自分のほんとうの気持ちを吐露してしまう悠日。
「ほしいものを手に入れた人と、手に入らなかった人がいて、いちばんほしいものが手に入らなかった人は、もう他に何も欲しくなくなってしまう」
本当の気持ちを言わず、笑顔でやりすごす悠日。「僕はもう十分です、満足です」の笑顔の裏に「俺を笑うな、俺をバカにするな」の思いを持っていた。けれど、兄と話すとそんな自分のだめなところが見えるから話せない。そうやって彼に助けを求めるかのような兄からの電話に出なかったから、兄は死んでしまったのだと自分を責めていたのだ。
それを受け止める星砂がいい。「その話、初めて人にするんだろう?」と促し、パトロール中のおまわりさんに注意されても「5分待ってくれよ!」と伝え、「警察なんかどうだっていいんだよ、ラーメンぐらいのびたっていいんだよ、話したいことがあるときは」という星砂。いつもは気怠げな彼女の、そのまっすぐな物言いに悠日だけでなく見ている私も胸を打たれた。
星砂は「電話、出な」と、死んだ兄の電話に出られなかった悠日にやり直しをさせる。悠日が兄の電話に「出て」話すのは、バナナのシールのことや家出のこと。この話がすぐに出てくるくらい、彼は兄が残した留守電を、後悔とともに何度も聞いていたのだろう。
悠日が泣きながらする、兄との「電話」。彼から少し離れた場所で、少し上のほうを見て待っている星砂の表情。またひとつ、忘れられないシーンが生まれた。
この夜を経て、悠日はファイルのサイズに合うように、資料を縮小してプリントするようになる。「今日からはこうします」ときっぱり言い切る。少しだけ変わった悠日。婚約者との関係はどうなるだろう。
脚本: 坂元裕二
演出: 水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平
出演: 林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑 他
主題歌: SOIL&”PIMP”SESSIONS『初恋の悪魔』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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