GINZAでも活躍中のファッションフォトグラファー・岡本充男さん。早朝ロケがあったとしても、寝る前にスマホでマンガを読む時間が、至福のひととき。そんなスマホライブラリーの膨大な蔵書の中から、GINZA読者におすすめしたい名作とは?
フォトグラファー・岡本充男のマンガ案内 其の一
『スラップスティック』1~3巻 青野春秋
そこに救いはない。ただ画だけで語りかける。
青野春秋というマンガ家をご存知であろうか?とにかく、妙な画力に惹き込まれる。細かく描かずして画で語る、みたいな。彼の作品は、『100万円の女たち』がドラマになっていたので、知っている人もいるかもしれない。その作者の自伝的なマンガがこの作品。まったく救いがないストーリーである。救いを求めたくはなるのだけど。主人公・立花春人(9歳)は、血のつながりはない母・とし子(39歳)と兄•秋介(15歳)と暮らしている。母子家庭で貧しく、兄は行き場のない怒りを周囲にぶちまけている。春人の心の叫びはどこで受け止められるのか。読み進めるうちに救いのある話なのかもしれない、と思ったりするものの、ズシンと心に傷跡を残すすさまじい作品。ちなみに自伝的作品といえば、東村アキコさんの『かくかくしかじか』もいい。
『ルーヴルの猫』上・下巻 松本大洋
読むと、ルーヴルに行きたくなる。
とにかくマンガに出てくる猫たちがかわいい!毛並みも美しく描かれ、リアルな猫の描写が素晴らしい。ルーヴル美術館で働くガイド・セシルが美術館内で見かけた白猫。実は昔からルーヴルの屋根裏には猫が住んでいて…。一匹の白猫が掟を破り、絵画の世界と行き来する、というファンタジー要素が入ったストーリー。これを読むと、ルーヴル美術館に行きたくなる(実はまだ一度も行ったことがないのです!)。ルーヴルに実在する絵をモチーフにストーリーが繰り広げられている。まるで萩尾望都さながらの世界観。今までとまったく違う作品を描き、進化を遂げ続ける松本大洋はとにかくスゴイ!猫たちを守っているおじいちゃんも渋いんです。実はこのおじいちゃんにも深い秘密がある。その続きはマンガにてお楽しみを。
『波よ聞いてくれ』1~4巻 沙村広明
女性の描き方、すごくいい!
『無限の住人』の作者によるマンガなんですけど、いやー、女性の描き方がとにかくいいんですよ。主人公・鼓田ミナレは、付き合っていた男にだまされた女。飲み屋でやけ酒を飲んでいたら、そのときに話したグチがラジオで流されて、ラジオ局に怒鳴り込むところから、ストーリーははじまる。スープカレー屋で働きつつ、ラジオで深夜に冠番組を持つようになるミナレ。その番組名がこのマンガのタイトル!彼女の強烈なキャラにグイグイと引き込まれる。とにかく女性の性質の核心をつく発言が、主人公やそれ以外のキャラにもセリフにふんだんに散りばめられていておもしろいし、読んでいてスカッともする。僕の中では、ギャグマンガのカテゴリーに入る作品ですね。
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Mitsuo Okamoto
GINZAをはじめ、数々のファッション誌や広告などで活躍するフォトグラファー。「少女マンガにも手を出しはじめて、ますます睡眠時間が短くなるのが悩み」だそうです。